2015年09月10日

バックハウス&イッセルシュテットのベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集、他


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本セットには、バックハウスがイッセルシュテット&ウィーン・フィルとともに行ったベートーヴェンのピアノ協奏曲全集などが収められているが、いずれの楽曲の演奏も神々しささえ感じさせるような至高の超名演だ。

本セットに収められた各楽曲の演奏が既に録音から半世紀以上が経過しており、単純に技量面だけに着目すれば更に優れた演奏も数多く生み出されてはいるが、その音楽内容の精神的な深みにおいては、今なお本演奏を凌駕するものがあらわれていないというのは殆ど驚異的ですらある。

バックハウスの経歴をみればわかるように、彼は19世紀最良のベートーヴェン弾きだったダルベールの唯一と言ってよい指導を受けた貴重なピアニストであり、彼がデッカに吹き込んだ録音はドイツ鍵盤音楽の極点であることは誰でも知っている。

だが、バックハウスが壮年のアラウのように教条主義的なまでにドイツ的なピアニストだったか、それは考えてみる余地がある。

若い頃のバックハウスはバルトークが「メトロノームの権化のようだ」と評したように、メカニックの正確さとほかの同年代の演奏家よりもはるかにモダンな、つまり、テンポルバートを廃した演奏をしていたのだし、彼の初期の録音はメカニックだけが優れたインテンポの演奏が目立つ。

しかし、この1950年代後半の録音、つまり、デッカに吹き込まれたものは若かりしバックハウスとはまったく違う。

ここには、譜面をきちんと読み、それを演奏している基本的なものと、完全な技術でもって聴衆を魅了するというだけでない、長い間ベートーヴェンにあったドイツの伝統、つまり、シュナーベルの古い録音にも通じるような伝統と革新という水と油が共存する、バックハウスにしか演奏できない音楽となっている。

まさに長年ベートーヴェンを弾き込んできたバックハウスの、巨人的な演奏の一面を知ることのできる全集で、すこぶる雄渾な演奏である。

内容の彫りの深さ、ドイツ的ながっしりとした構成力の素晴らしさは、見事の一語に尽きる。

まさに本演奏こそは、例えばベートーヴェンの交響曲などでのフルトヴェングラーによる演奏と同様に、ドイツ音楽の精神的な神髄を描出するフラッグシップの役割を担っているとさえ言えるだろう。

バックハウスのピアノはいささかも奇を衒うことなく、悠揚迫らぬテンポで曲想を描き出していくというものだ。

飾り気など薬にしたくもなく、聴き手に微笑みかけることなど皆無であることから、聴きようによっては素っ気なささえ感じさせるきらいがないわけではない。

しかしながら、かかる古武士のような演奏には独特の風格があり、各フレーズの端々から滲み出してくる滋味豊かなニュアンスは、奥深い情感に満ち溢れている。

全体の造型はきわめて堅固であり、スケールは雄渾の極み。

その演奏の威容には峻厳たるものがあると言えるところであり、聴き手もただただ居住まいを正さずにはいられないほどだ。

したがって、本演奏を聴く際には、聴く側も相当の気構えを要すると言える。

バックハウスと覇を争ったケンプの名演には、万人に微笑みかけるある種の親しみやすさがあることから、少々体調が悪くてもその魅力を堪能することが可能であるが、バックハウスの場合は、よほど体調が良くないとその魅力を味わうことは困難であるという、容易に人を寄せ付けないような厳しい側面があり、まさに孤高の至芸と言っても過言ではないのではないかとさえ考えられる。

バックハウスとケンプについてはそれぞれに熱烈な信者が存在し、その優劣について論争が続いているが、筆者としてはいずれもベートーヴェンの至高の名演であり、容易に優劣を付けられるものではないと考えている。

イッセルシュテットの指揮も、バックハウスの意図をよく汲み取った名伴奏であり、ウィーン・フィルの優雅な音色を十全に生かしたもので、曲の美しさを改めて見直させる。

録音は英デッカによる高音質であり、リマスタリングされたこともあって、従来盤でも十分に満足できる高音質に仕上がっている。

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コメント一覧

1. Posted by くまごろう   2015年08月22日 22:51
5 はじめまして。
クラシック、超初心者です。
知識が豊富で羨ましいです。こういう何でも知っている友達が、近くにいるといいのですが....。
ところで、ベートーベンのピアノソナタ全曲と、ベートーベンのピアノ協奏曲全曲は誰のが一番いいですか?教えていただけませんでしょうか?
2. Posted by 和田   2015年08月23日 12:53
いずれもバックハウスが至高の名演を遺してくれています。
グルダも世評が高く、スタンダードと言える出来映えです。
ピアノ・ソナタ全集におけるケンプやピアノ協奏曲全集におけるアラウ&デイヴィスなども忘れられないですね。
新しい録音だとブレンデルやポリーニをお薦めします。
3. Posted by くまごろう   2016年03月13日 15:25
5 紹介していただいた、ベートーベン、半年がかりで聴いてみました。教えていただきありがとうございました。
私の好みは、グルダさんの(ベートーベンの顔ついたもの)と、ブレンデルさんの(ベージュの壁から白黒のブレンデルさんが顔を出している写真のもの)でした!

べつにコンプリートしたかったわけではなく、ただ、いまどきの小学生が弾いている、19.20.25.10.9番あたりを、有名なピアニストで聴いてみたかったのです。大抵のCDは、8.14.17.21.23とか有名なものが多いので。
もちろんこの有名な曲が入ったCDも素晴らしいものが沢山沢山ありました!

因みに今気に入ってるのは、録音が新しい、ティルフェルナーさんと、ルドルフブフビンダーさんです。ほとんど個人の好みですね。

つぎは、モーツァルト、ショパンに行って見ようと思います。ブログ参考にさせていただきますね。
音楽的な事がよくわからないので、また、質問させていただくかもしれません、どうぞよろしくお願いいたします。
4. Posted by 和田   2016年03月13日 15:32
くまごろうさん、お役に立てて嬉しく思います。
ちなみにモーツァルトのピアノ曲はギーゼキング、ショパンのピアノ曲はルービンシュタインが初心者から玄人までお薦めです。
5. Posted by くまごろう   2016年03月13日 16:52
うぁー!さっそくありがとうございます。うれしいです。(今回ベートーベンのソナタの感想だけかきましたが、協奏曲はまだ聴いている途中なんです。)
自分で質問しておいて、全曲、いろんな音源を聴いていると、思っていた以上にものすごーく時間がかかってしまって(汗)

モーツァルトも沢山のピアニストが弾いているし、ショパンも、ワルツとかエチュード、マズルカ、ノクターン、ソナタ、などなどいろいろ分かれているようなので、(ちょっと勉強してみた)地道にコツコツと聴いていきます。
バッハ、シューベルト、シューマン、などなどにたどり着けるのはいつの日か....。ありがとうございました(^O^)


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Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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