2015年06月08日
ワルター&コロンビア響のベートーヴェン:交響曲第6番「田園」[SACD]
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ワルターは80歳で現役を引退したが、その後CBSの尽力により専属のオーケストラ、コロンビア交響楽団が結成され、その死に至るまでの間に数々のステレオによる録音が行われたのは何という幸運であったのであろうか。
その中には、ベートーヴェンの交響曲全集も含まれているが、ワルターとともに3大指揮者と称されるフルトヴェングラーやトスカニーニがステレオ録音による全集を遺すことなく鬼籍に入ったことを考えると、一連の録音は演奏の良し悪しは別として貴重な遺産であるとも言える。
当該全集の中でも白眉と言えるのは「第2」と「田園」ではないかと考えられる。
とりわけ、本盤に収められた「田園」については、同じくワルター指揮によるウィーン・フィル盤(1936年)、ベーム&ウィーン・フィル盤(1971年)とともに3強の一角を占める至高の超名演と高く評価したい。
巨匠ワルターが切り開いたリリシズムの世界は、この作品を語る上で欠かせない永遠の名盤である。
本演奏は、どこをとっても優美にして豊かな情感に満ち溢れており、「田園」の魅力を抵抗なく安定した気持ちで満喫させてくれるのが素晴らしい。
ワルターの演奏には思い入れとか野心とかがなく、常に清楚な精神性のようなものが宿っている。
端正な響きと肩の力の抜けた表現で刻み込まれる晴朗にして健全なベートーヴェンであり、「田園」の原点とも言うべき演奏だ。
ワルターは、私たちの心にあるこの作品のイメージを最もスタンダードに表現したとも考えられる演奏である。
暖かい人間性を感じさせる温雅でまろやかな語り口は作品の美しさを実にナイーヴに描出する結果をもたらしている。
フルトヴェングラー、シェルヘン、カラヤン、アバド、朝比奈……誰を聴いてもワルターに比べると帯に短し、タスキに長しで、なにがしかの違和感が残る。
オーケストラは、3強の中で唯一ウィーン・フィルではなくコロンビア交響楽団であるが、ワルターの確かな統率の下、ウィーン・フィルにも匹敵するような美しさの極みとも言うべき名演奏を披露している。
スケールの大きさにおいては、ベーム盤に一歩譲ると思われるが、楽曲全体を貫く詩情の味わい深さにおいては、本演奏が随一と言っても過言ではあるまい。
もっとも、第4楽章の強靭さは相当な迫力を誇っており、必ずしも優美さ一辺倒の単調な演奏に陥っていない点も指摘しておきたい。
ワルターの資質と音楽とがぴったり一致した真の牧歌がここにあり、作品が書かれた当時の作曲者の心を、そのままうつし出したかのような、感動的な名演奏である。
なお、ワルターによる1936年盤は録音の劣悪さが問題であったが、数年前にオーパス蔵によって素晴らしい音質に復刻された。
演奏内容自体は本演奏と同格か、さらに優れているとも言える超名演であるが、現在ではオーパス盤が入手難であることに鑑みれば、本演奏をワルターによる「田園」の代表盤とすることにいささかの躊躇もするものではない。
本演奏は至高の超名演であるだけに、これまでリマスタリングを何度も繰り返すとともに、Blu-spec-CD盤も発売されたりしているが、ベストの音質は本シングルレイヤーによるSACD盤であると考える。
本SACD盤は現在でも入手可であり、テープヒスが若干気になるものの、ワルターによる超名演を弦楽奏者の弓使いや木管楽器奏者の息遣いまでが鮮明に再現されるSACDによる極上の高音質で味わうことができるのを大いに歓迎したい。
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