2022年03月10日
トムソン&ロンドン響のヴォーン=ウィリアムズ:交響曲全集
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ブライデン・トムソン&ロンドン交響楽団によるヴォーン=ウィリアムズの交響曲全集は、定評あるボールトやプレヴィンの全集をも凌駕する出来映えを誇っていると言っても過言ではない。
「第1」は雄渾・壮大、非常な力演である。
合唱の比重が大きい作品で、その処理が何よりも重要だが、トムソンは素晴らしく鋭敏な、そして声とコーラスに対する見事な手腕をもって難関を切り抜けており、構成力も強い。
練りに練られた表現と、その中に明滅する抒情性の美しさ、劇性の確かさは彼の力量を示している。
オケが熱演を展開し、独唱にも気迫があり、表情豊かな音楽だ。
「第2」は標題音楽的な内容だが、純音楽的にすぐれた表現で演奏も緻密、第1楽章では多くの素材に対するトムソンの愛着が伝わってくるし、第2楽章は弦合奏の幻想的な響きが印象派風の音構造を着実に描き出す。
第3楽章もドビュッシーのような感覚美を浮かび上がらせ、終楽章の力感に満ちた接続曲風に変転する楽想の自然さも見事というほかはない。
「田園」というタイトルのついた「第3」の穏やかな抒情感は、イギリス近代音楽の精髄と言えよう。
それはトムソンのようなイギリスの指揮者だからこそ表現できるものかもしれないが、第1楽章の大自然の時の流れのように悠揚とした進行を聴けば、この曲がベートーヴェンとは違った「田園」であることを痛感する。
第4楽章ではケニーが透明度の高い声で、絶妙な表情と雰囲気を表している。
「第4」は戦争への不安と波乱の予感が背景にあり、この作曲家にしては珍しく、危機をはらんだ多くの不協和音が全曲を支配している。
第1楽章でトムソンはロンドン響から緊迫感に富んだサウンドを引き出し、第2楽章でも指揮の確かさと合奏力の優秀さが光る。
フィナーレは軍隊調でかなりの迫力だ。
「第5」の第1楽章はホルンの呼び声に始まる牧歌的な音楽で、第2楽章は民俗舞踊風のテンポの速いものだが、このコンビはこういう音楽の演奏をさせると他の追随を許さぬものがある。
第3楽章のロマンスをトムソンは心からの共感をこめて内面の歌を歌い、フィナーレでは乗りに乗って魅力的な旋律をつぎつぎに繰り出してくる。
「第6」は闘争的な楽想で開始する第1楽章の、自由だが考え抜かれた書法は作曲者のキャリアの証で、その緊張感の表現が素晴らしい。
第3楽章もフーガ的な構成をとる緊密な音楽で、その旋律とリズムのポリフォニーの明快な表現が快い。モデラートの静かな第4楽章は、延々と漂うような音楽が続く不思議な終曲だ。
「第7」はこの曲の最高の秀演である。
第1楽章は実に豊かな共感を表した演奏で、第2楽章は急速な弦のうねりと共に現れる管の詩情、ハープとピアノの色彩の美しさ等が聴き手を魅了してやまない。
第3楽章での悲しみの抒情は作品の本質に触れたもので、終楽章は壮大なトゥッティのバランスが巧みに整えられ、ソロと合唱は晴朗そのものだ。
コーダの表現もこれ以上は望めないだろう。
「第8」の演奏は、トムソンの作品に対する激しい共感をよく伝えている。
第1楽章は情熱的で内的緊張感が強く、各変奏の変転が明快に表出される。
また、アンダンテ・ノン・トロッポの部分では弦の内声の厚みと柔らかさがよく、見えかくれする主題を巧みに追求している。
第2楽章の管もうまい。
第3楽章は作曲者得意の手法を的確に表し、第4楽章も隙のない表現である。
「第9」は作曲者の最晩年、85歳の時に書かれた作品で、全体を老巨匠のペシミズムが支配している。
第1楽章は不気味な序奏に始まり、クラリネット独奏が示す第1主題も不思議なイメージだ。
第2楽章はフリューゲルホルンの静かな導入と、粗野な行進曲の楽想の対比が狙いだ。
第3楽章はシニカルなスケルツォ、終楽章は静かな導入部からホルンによる主題へと移る。
以上、演奏全体から受ける印象は無骨ではあるが、それ故に味わいがあり、この無骨さがヴォーン=ウィリアムズの音楽にマッチして、聴く者に圧倒的な力で訴えてくるのである。
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