2015年05月04日
ベームのワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」(1966年ライヴ)
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本盤の演奏は、1966年のバイロイト音楽祭のライヴ録音である。
名指揮者ベームが最も充実した時代の演奏であると同時に、戦後のバイロイトの最も実り多かった時代の記録でもある。
ベームの遺したワーグナーのオペラの録音には、バイロイト祝祭管との歌劇「さまよえるオランダ人」の演奏(1971年)や、バイロイト祝祭管との楽劇「ニーベルングの指環」の演奏(1966、1967年)など数々の名演を遺しているが、それらの名演にも冠絶する至高の名演は、本盤に収められたバイロイト祝祭管との楽劇「トリスタンとイゾルデ」であると考える。
それどころか、同曲の他の指揮者による名演であるフルトヴェングラー&フィルハーモニア管による演奏(1952年)やクライバー&シュターツカペレ・ドレスデンによる演奏(1980〜1982年)と並んで3強の一角を占める超名演と高く評価したい。
そして、フルトヴェングラーが深沈とした奥行きの深さ、クライバーがオーケストラのいぶし銀の音色を活かした重厚さを特色とした名演であったのに対して、ベームによる本演奏は、実演ならではのドラマティックで劇的な演奏と言えるのではないだろうか。
そして、学者風でにこりともしない堅物の風貌のベームが、同曲をこれほどまでに官能的に描き出すことができるとは殆ど信じられないほどである。
ベームは、実演でこそ本領を発揮する指揮者と言われたが、本演奏ではその実力を如何なく発揮しており、冒頭の前奏曲からして官能的で熱き歌心が全開だ。
その後も、トゥッティに向けて畳み掛けていくような気迫や緊張感、そして切れば血が吹き出してくるような強靭な生命力に満ち溢れており、全盛期のベームならではのリズミカルな躍動感も健在だ。
テンポは若干速めであるが、隙間風が吹くような箇所は皆無であり、どこをとっても造型の堅固さと充実した響きが支配しているのが素晴らしい。
晩年の老いたベームとは異なる、真の巨匠としてのベームの逞しい音楽が渦巻いている。
バイロイトに集結した名歌手陣の、その感動的な歌唱の魅力は素晴らしく、現在聴いても少しも色褪せていない。
とりわけ、第2幕のイゾルデ役のビルギット・ニルソンとトリスタン役のヴォルフガング・ヴィントガッセンによる愛の熱唱は、ベームの心を込め抜いた指揮も相俟って、おそらくは同曲演奏史上でも最高峰の名演奏に仕上がっていると言えるところであり、その官能的な美しさといい、はたまたドラマティックな迫力といい、聴いていてただただ圧倒されるのみである。
そして、第3幕終結部のイゾルデの愛の死におけるビルギット・ニルソンによる絶唱は、もはや筆舌には尽くし難い感動を覚えるところだ。
これらの主役2人のほか、クルヴェナール役のエーベルハルト・ヴェヒター、ブランゲーネ役のクリスタ・ルートヴィヒ、そして、マルケ王役のマルッティ・タルヴェラによる渾身の熱唱も、本名演に大きく貢献していることを忘れてはならない。
また、その後大歌手に成長することになる、ペーター・シュライヤーが水夫役で登場しているのも、今となっては贅沢な布陣と言える。
録音は、従来盤でもリマスタリングが行われたこともあって十分に満足できる音質であると言えるが、同曲演奏史上トップの座を争うベームによる至高の超名演でもあり、今後はSHM−CD化、そして可能であればシングルレイヤーによるSACD&SHM−CD化を図るなど、更なる高音質化を大いに望んでおきたいと考える。
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