2015年09月27日

グスタフ・マーラー:交響曲集 クラウス・テンシュテット&ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団:ライヴレコーディング集


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テンシュテットによる最大の遺産は、何と言っても1977年から1986年にかけてスタジオ録音されたマーラーの交響曲全集ということになるのではないだろうか。

テンシュテットは、当該全集の掉尾を飾る「第8」の録音の前年に咽頭がんを患い、その後は放射線治療を続けつつ体調がいい時だけ指揮をするという絶望的な状況に追い込まれた。

それとともに近年様々なライヴ録音が発掘されることによってその実力が再評価されつつあるテンシュテットであるが、ここにテンシュテットの一連のマーラーのライヴ録音がまとまった形で集成されたことは、ファンには朗報に違いない。

テンシュテットのマーラーの交響曲へのアプローチはドラマティックの極みとも言うべき劇的なものだ。

マーラーの交響曲は非常に懐が深く、演奏者によって非常に個性豊かな様々な表情を見せるが、この集成はその中でも迫力にかけては1、2を争うものではないだろうか。

ことにテンシュテットはマーラーのライヴにおいては、変幻自在のテンポ設定や思い切った強弱の変化、猛烈なアッチェレランドなどを駆使して、大胆極まりない劇的な表現を施している。

かかる劇的な表現においては、かのバーンスタインと類似している点も無きにしも非ずであり、マーラーの交響曲の本質である死への恐怖や闘い、それと対置する生への妄執や憧憬を完璧に音化し得たのは、バーンスタインとテンシュテットであったと言えるのかもしれない。

ただ、バーンスタインの演奏があたかもマーラーの化身と化したようなヒューマニティ溢れる熱き心で全体が満たされている(したがって、聴き手によってはバーンスタインの体臭が気になるという者もいるのかもしれない)に対して、テンシュテットの演奏は、あくまでも作品を客観的に見つめる視点を失なわず、全体の造型がいささかも弛緩することがないと言えるのではないだろうか。

非常に熱の入った激情型の演奏ではあるが、バーンスタインのように没入し切ったような感じではなく、構成感もしっかりしている。

テンシュテットのマーラーは抒情性が豊かで、旋律の歌いまわしも美しく、何よりマーラー独特のダークなテンペラメントが顕著に表現されていて、個性的なマーラー演奏になっている。

マーラーの音楽の持つ不安定さ、壊れやすさ、デリカシーが理想的に尊重され丁寧に扱われている。

もちろん、それでいてスケールの雄大さを失っていないことは言うまでもないところだ。

このあたりは、テンシュテットの芸風の根底には、ドイツ人指揮者としての造型を重んじる演奏様式が息づいていると言えるのかもしれない。

また、テンシュテットのマーラーは、ライヴ録音だけ聴くと爆演指揮者のように思われるが、その実テンシュテットの取り組み方はかなり慎重で周到な準備を重ねた手堅い曲作りになっているのは見逃せない。

いずれにしても、本セットに収められた演奏はいずれも圧倒的な超名演であり、我々聴き手の肺腑を打つのに十分な凄みのある迫力を湛えていると評価したい。

オーケストラはいずれも必ずしも一流とは言い難いロンドン・フィルであるが、テンシュテットのドラマティックな指揮に必死に喰らいつき、テンシュテットとともに持ち得る実力を全面的に発揮させた渾身の演奏を繰り広げていると言えるところであり、本名演に大きく貢献しているのを忘れてはならない。

マーラーの交響曲のライヴ録音はあまた存在しており、その中ではバーンスタインによる3つのオーケストラを振り分けた最後の全集が随一の名演奏と言えるが、聴き手に深い感動を与えるという意味において当該バーンスタインの超名演に肉薄し得るのは、本セットに収められたテンシュテットによるライヴ録音の集成であると考える。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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