2015年05月28日

ゼルキンのベートーヴェン集成


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ソニー・クラシカルのバジェット・シリーズのひとつで、ルドルフ・ゼルキンが最も得意としたベートーヴェン作品集。

ロシア系ユダヤ人であったゼルキンはナチスの迫害を避け、アメリカに渡って活躍した。

これらの録音もその成果で、ゼルキンの若々しいスタイルが強く伝わる時代の録音でもあり、まさに往年の、王道のベートーヴェンと表現したい貫禄に満ちた演奏を聴くことが出来る。

ゼルキンの風貌や人柄にはどこか朴訥とした印象があって、ややもすれば饒舌で個性の主張が強いピアニスト達の中で、テクニックを誇示するような曲にはそれほど関心を示さなかったために、華麗なヴィルトゥオジティなどという形容には縁がなかったにしても、音楽そのものをじっくり鑑賞したい方なら、常に明確なアーティキュレーションに支えられた滋味に富んだ深い表現、本質的で飾らない真摯な演奏など、彼くらいベートーヴェンの音楽を掘り下げて解釈を探求した音楽家はそれほど多くないことに気付くに違いない。

こういう演奏は得てしてつまらない演奏になりがちだが、要所の締め、あちらこちらに見えるちょっとした閃きのような輝きが耳を奪う。

当然こうした彼の性格は録音に対してもかなり慎重で注意深かったため、ソナタに関しては全曲集を完成させることはなかったが、この11枚のセットには1962年から80年の長きに亘って録音された17曲のソナタと、協演者の異なる全5曲のピアノ協奏曲、2種類の『コラール・ファンタジーハ短調』、『ディアベッリ変奏曲』、11曲の『バガテル』、『幻想曲ロ長調』そしてハイメ・ラレードのヴァイオリンとレスリー・パルナスのチェロが加わる『トリプル・コンチェルトハ長調』が収録されている。

全盛期のゼルキンの至芸をこうした形でまとめて鑑賞できるのは幸いなことであり、こんな名演揃いのCDがこれほどの値段で手に入るとはいい世の中になったものである。

コンチェルトは晩年のクーベリック(Rafael Kubelik 1914-1996)との共演盤が有名だが、これらの録音でも真摯で力強いゼルキンのピアニズムは端的に示されている。

ソナタも素晴らしく「風格ある演奏」で、『熱情』や『悲愴』といった高名なソナタが、ど真ん中の力強い解釈により、「これこそ原型である」という説得力に満ち、聴き手はその本来の姿にあらためて酔い、感動する。

ただ、ソナタではアコーギクにおいてときおり恣意性が感じられるところがあり(決して音楽の全体的美観を損ねるほどではないが)、個人的には、ソナタよりもコンチェルトの方で、この人の美点がより発揮されているように思えた。

オケとの共同作業の中で音楽を構築するという方が、フレージングやアーティキュレーションが冴え、魅力的に響いている。

実に真っ当なベートーヴェン解釈であり、ここぞという時の渾身の迫力が凄いだけでなく、簡素な楽想でさりげなく添えられる深い芸術的情緒は、なんとも味が深く、コクがある。

客観的に全体像を見通したような組み立て方は安心して聴ける最大の要因だろう。

端正で、決して羽目を外すことのない模範的な演奏で、要するにピアノで歌うとは、人を感動させるとはこういう演奏のことなのだ。

まったくこのピアニストには1音1音追いかけて聴きたくなるような深いニュアンスと滋味溢れる響きの世界がある。

ピアノのせいもあるかも知れないが武骨そうなのに、意外に色彩感が豊富なのも優れた特徴で、音の強弱の段階づけの細やかで多彩なことは歴代のピアニストの中でもトップクラスだ。

これに比肩できるのはポリー二とグルダぐらいだろう。

音楽性ももちろんだが、ポリー二がゼルキンを尊敬するピアニストに挙げるわけである。

1曲1曲挙げればキリがないが、そのいずれの演奏も誰も成し得なかった未踏の境地によるもので、これこそ真の芸術遺産と呼ぶべきものである。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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