2015年04月18日
グルダ&シュタインのベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集
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2000年の2月に惜しまれつつ世を去ったベートーヴェンの解釈で高い評価を得ていた名ピアニスト、フリードリヒ・グルダが残したベートーヴェンのピアノ協奏曲全集で、鬼才と呼ばれたグルダの音楽性が光る名盤。
ウィーンに生まれ同地で音楽を学んだグルダは、若い頃からクラシックとジャズを混合したプログラムでリサイタルを行うなど個性的な活動を繰り広げ、鬼才の名を欲しいままにした名ピアニスト。
多彩な演奏スタイルを身につけたアーティストであったが、明快なタッチによる求心性と精神的なゆとりが同居しているベートーヴェンの演奏は、グルダの録音の中でも最も高い評価を獲得している1組。
グルダには、鬼才と称されるように個性的な演奏が多いが、初期の「第1」と「第2」では、自我を極力抑制し、ドイツ音楽ならではのシンフォニックでかつ正統派の演奏を聴かせてくれる。
重厚かつ力強い打鍵から軽快なリズム感、そして抒情的な箇所での繊細なタッチに至るまで、表現力の幅広さも特筆すべきものがある。
それに加えて、この当時のウィーン・フィルの音色の高貴な優美さは、筆舌には尽くし難い素晴らしさだ。
これら両者へのシュタインの合わせ方も実に巧みで、ベートーヴェン初期のピアノ協奏曲の名演の中でも上位にランクされる名演に仕上がっていると言っても過言ではないだろう。
≪運命≫交響曲と同じハ短調という調性を持ち、悲劇的なパトスに満ちた劇的な「第3」や優美な旋律と柔和な表現が忘れられない印象を残す「第4」だと、鬼才の名を欲しいままにしているグルダのこと、より個性的なアプローチをとるのかと思いきや、初期の2曲と同様に、あくまでも自我を抑え、オーソドックスな正統派のアプローチに終始している。
もちろん、だからと言って物足りないということは全くなく、強靭な打鍵から繊細なタッチまで、確かな技量をベースとしつつ表現力の幅は実に幅広く、「第3」と「第4」の性格の全く異なる両曲を的確な技巧と柔軟な感性で描き分けも見事に巧みに行っている。
ウィーン・フィルは、どんなに最強奏しても、決して美感を失うことはなく、どの箇所をとっても高貴な優美さを損なうことはない。
シュタインも重厚で巨匠風の堂々たる指揮ぶりで、これら独奏者、オーケストラ、指揮者の3者が揃った演奏は、過去の「第3」や「第4」の名演の中でも、上位にランキングされるものと思われる。
華麗で威風堂々としたスケールの大きな曲想がそのニックネームに相応しい名曲「皇帝」は、グルダ、ウィーン・フィル、そしてシュタインという素晴らしい組み合わせによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集の有終の美を飾る堂々たる名演である。
グルダの基本的なアプローチは正統派のオーソドックスなもので、「第1」〜「第4」の場合とは特に変わりはない。
ただ、曲が「皇帝」だけに、全体に重厚かつ悠然とした自信に満ち溢れた演奏をしており、ウィーン・フィルの高貴かつ優美な演奏と、シュタインの巨匠風の堂々たる指揮が見事にマッチして、珠玉の名演に仕上がっている。
総じてグルダはベートーヴェンの音楽に思想の表現手段としての音楽以上の意味を持たせることには基本的に興味がないようであるが、ベートーヴェンを音楽として楽しむには、このグルダ盤は最高だ。
もったいぶった哲学的瞑想も、鯱張ったポーズもなく、ただ純粋な音楽的アプローチでベートーヴェンと向き合い、多彩な魅力を十全に引き出している。
音楽を超えたベートーヴェン像を求める向きにはなじまないだろうが、音楽としてベートーヴェンの魅力を存分に味わえる。
いつ聴いても新鮮、スリリング且つダイナミックで、退屈しない素晴らしい全集だ。
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