2015年04月30日
ヨッフム&コンセルトヘボウのベートーヴェン:交響曲全集
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ヨッフムがコンセルトヘボウ・アムステルダムとともにスタジオ録音した名盤の待望の復活を先ずは大いに歓迎したい。
手堅い表現で知られたヨッフムは、晩年スケール感を加えて驚くべき境地に達し、80歳を過ぎてからの来日公演におけるブルックナーは忘れえぬ名演だった。
コンセルトヘボウ・アムステルダムを率いたベートーヴェン交響曲全集は、後にロンドン交響楽団と入れた一期一会の崇高な演奏と較べると質実過ぎると感じるかもしれないが、ここでは中庸にして核心を突く壮年期ならではの才腕が聴き取れる。
ヨッフムというと手堅い演奏で知られているが、この交響曲全集も非常に綿密な演奏で、正確な演奏である。
有名なカラヤン盤と比較すると、テンポも遅めで、演奏も華やかではないが、その簡素な表現と質実剛健とも言える演奏は、むしろ最もオーソドックスなベートーヴェンのスタンダードと言えるものである。
このベートーヴェンも、もう1つのロンドン交響楽団との全集と同じく、猛々しい部分も凪の部分も、ヨッフム独特の「愛」が感じられる名演である。
近年では、ベートーヴェンの交響曲の演奏様式も当時とは大きく様変わりし、小編成オーケストラのピリオド楽器による演奏や、大編成のオーケストラによるピリオド奏法による演奏などが主流を占めつつあり、いまやかつての大編成のオーケストラによる重厚な演奏を時代遅れとさえ批判するような見解も散見されるところだ。
近年発売されたティーレマン&ウィーン・フィルによるベートーヴェンの交響曲全集は、そうした近年の軽妙浮薄とも言うべき演奏傾向へのアンチテーゼとも言うべき意地の名演であったが、それも少数派。
一部の音楽評論家や音楽の研究者は喜んでいるようであるが、少なくとも、かつての大指揮者による重厚な名演に慣れ親しんできたクラシック音楽ファンからすれば、あまり好ましい傾向とは言えないのではないかとも考えられるところだ。
パーヴォ・ヤルヴィやノリントン、ジンマンなどによって、芸術的にもハイレベルの名演は成し遂げられているとは言えるものの、筆者としては、やはりどこか物足りない気がするのである。
そうした中にあって、ヨッフム&コンセルトヘボウ・アムステルダムによる演奏を聴くと、あたかも故郷に帰省した時のように安定した気持ちになるのは筆者だけではあるまい。
もちろん、ヨッフムは何か特別な解釈を施しているわけではない。
奇を衒ったようなアプローチは皆無であり、コンセルトヘボウ・アムステルダムの幾分くすんだドイツ風の重厚な響きを最大限に生かしつつ、曲想を丁寧に描き出していくというオーソドックスな演奏に徹していると言えるところだ。
もっとも、随所にロマンティシズム溢れる表現や決して急がないテンポによる演奏など、ヨッフムならではの独自の解釈も見られないわけではないが、演奏全体としてはまさにドイツ正統派とも言うべき重厚な演奏に仕上がっていると言えるだろう。
オーケストラの自発性を引き出した柔らかな響きの「田園」や溌剌とした第8番など、偶数番号がなかんずく優れた出来栄えである。
もちろん、ベートーヴェンの交響曲全集にはあまたの個性的な名演があり、特に偶数番号の名演としては、ワルター&コロンビア交響楽団、イッセルシュテット&ウィーン・フィルなどが存在し、これらと比較すると強烈な個性に乏しいとも言えるが、ベートーヴェンの交響曲の魅力をダイレクトに表現しているという意味においては、本盤のヨッフムによる演奏を素晴らしい名演と評価するのにいささかの躊躇をするものではない。
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