2015年08月29日
デュメイ&ピリスのグリーグ:ヴァイオリン・ソナタ全集
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フランスのヴァイオリニスト、デュメイとポルトガルのピアニスト、ピリスによるグリーグのヴァイオリン・ソナタ全3曲を収録したアルバム。
グリーグ生誕150年記念として、1993年にベルリンで録音され大絶賛を受けた傑作である。
グリーグの3つのヴァイオリン・ソナタはいずれも美しい作品であるが、なぜか録音される機会が少なく、最も高名な第3番でも、新録音のニュースにはあまりお目にかからない。
これらのソナタにはしばしば構造的な欠点が指摘される。
その「欠点」は、これらのソナタに、と言うより、グリーグの作品全般に言われることだが、対位法的な処理があまり行われず、音楽が展開力に乏しいことであるが、逆にグリーグの美点として「美しいメロディ」を創作する能力があった。
そのため、グリーグの全作品を俯瞰すると、圧倒的に多いのが「小品」であり、メロディだけに紡がれた、大きな展開のない音楽だ。
逆に本格的なソナタ形式を踏襲するような規模の大きい作品は極端に少なく、交響曲は習作とされる1曲のみだし、ピアノ・ソナタとピアノ協奏曲がいずれも名品だけれど、たったの1曲ずつ。
そのような背景にありながら、なぜかヴァイオリン・ソナタだけは3曲もあり、この事実は結構重要な気がする。
グリーグが自ら「不向き」と考え、ごく限られたインスピレーションのみを還元していたジャンルにあって、なぜかヴァイオリン・ソナタのみが豊作なのである。
「ヴァイオリン」と「ピアノ」という2つの「歌う」楽器の合奏に、メロディ主体で楽曲を構成できる調和を見出したのかもしれない。
しかしそのヴァイオリン・ソナタも、よく構造的な欠陥が指摘されており、例えば、1つの主題から別の主題に移る際の音楽的な処理は、しばしば「カット」され、ただの「ジャンプ」になってしまっていたりする。
しかし、これらのヴァイオリン・ソナタを彩る旋律は本当に美しいのだ。
だから、上記の様な不自然な音楽的欠陥があっても、筆者はこれらのソナタをとても楽しむことができるし、いろいろな想像をかきたてさせてくれるものだと思っている。
それで、その入手可能なディスクで有力な大御所による録音となると、このデュメイとピリスによるものとなる。
デュメイの演奏は、持ち前の超絶的な技巧をベースに、緩急自在のテンポ設定、思い切った強弱の変化、心を込め抜いた節回しや時として若干のアッチェレランドなどを交えつつ、楽曲の細部に至るまで彫琢の限りを尽くした演奏を展開しており、その情感豊かで伸びやかな表現は自由奔放で、なおかつ即興的と言ってもいいくらいのものである。
そして、このようなデュメイの個性的なヴァイオリン演奏をうまく下支えしているのがピリスのピアノ演奏である。
ピリスのアプローチは、各楽曲の北欧風の詩情に満ち溢れた旋律の数々を、瑞々しささえ感じさせるような透明感溢れるタッチで美しく描き出していくというものだ。
その演奏は純真無垢とさえ言えるものであり、世俗の穢れなどはいささかも感じさせず、あたかも純白のキャンバスに水彩画を描いていくような趣きさえ感じさせると言えるだろう。
特に緩徐楽章の郷愁に満ちたメロディが、清涼感に満ちた爽やかな佇まいをもって示されているのは、たいへん好ましいと思う。
作為を感じさせない自然なニュアンスに満ちていて、まるで夏の木陰で、涼やかな風を受けているような心地よい響きなどたいへん魅惑的な演奏だ。
ソナタ第2番の終楽章の輝かしさも忘れ難い。
それにしても、もっと多くのヴァイオリニストに、これらのグリーグのヴァイオリン・ソナタを録音してほしいと願う。
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