2015年04月30日
ゲルギエフ&マリインスキー劇場管のショスタコーヴィチ:交響曲第8番(新盤)[SACD]
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旧盤から15年以上を経て、円熟のゲルギエフが再度問いかける、作曲70周年の問題作であるが、素晴らしい名演と高く評価したい。
現在の様々な指揮者の中で、ショスタコーヴィチの交響曲の名演を成し遂げる可能性がある指揮者と言えば、これまでの実績からして、本盤のゲルギエフのほかは、インバルが掲げられると思うが、他の指揮者による名演もここ数年間は成し遂げられていないという現状に鑑みると、現在では、ショスタコーヴィチの交響曲の演奏についてはゲルギエフとインバルが双璧と言えるのかもしれない。
いずれにしても、本盤に収められた名演は、このような考え方を見事に証明するものと言えるだろう。
第8番の過去の名演としては、初演者として同曲が有する精神的な深みを徹底して追求した決定盤の誉れ高いムラヴィンスキー&レニングラード・フィルの名演(1982年)があり、本盤の演奏も、ムラヴィンスキーの系列に繋がるものと言える。
ゲルギエフ&マリインスキー劇場管弦楽団による、ショスタコーヴィチの交響曲第8番は、1994年9月に同じオーケストラとオランダのハーレムにて録音され、ロングセラーとなっていた。
今回は15年以上を経て、ゲルギエフの円熟ぶりと、手兵マリインスキー劇場管弦楽団を完全に手中に収めた神業の完成度に驚かされる。
旧盤で見られた未消化さや解釈の甘さは完全に払拭され、黒光りするような凄味が感じられるところであり、こうした幻想的で複雑な大曲にこそ、ゲルギエフの真価が最大に発揮し得ると言えるだろう。
ここでもゲルギエフは、楽曲の本質を抉り出していくような鋭さを感じさせる凄みのある演奏を披露しており、おそらくは、同曲演奏史上ベストを争う名演と高く評価したい。
全体として堅固な造型を構築しつつ、畳み掛けていくような緊迫感や、生命力溢れる力強さは圧巻の迫力を誇っている。
また、スコアに記された音符の表層をなぞるだけでなく、スターリン時代の粛清や死の恐怖などを描いたとされている同作品の本質をこれだけ音化し得た演奏は、おそらくはムラヴィンスキー以来はじめてではないかとさえ思われるほどだ。
その壮絶とも言える圧倒的な迫力は、我々聴き手の肺腑を打つのに十分だ。
今回の演奏時間は65分38秒、旧盤より2分半ほど長くなっているが、注目は第1楽章のテンポの遅さ。
旧盤より2分半、ムラヴィンスキーの1982年盤に比べて3分半も遅く、数ある同曲の録音中でもかなり遅い部類に属する。
重苦しさに満ちながら、驚くほど強い緊張感が張り詰め、金縛りにあったように動けなくなる凄さ!ゲルギエフのテンポ設定に納得させられる。
急速楽章の第2、第3楽章はほぼ同じ演奏時間であるが、ラルゴの第4楽章は1分ほど速く、希望の兆しが見える第5楽章は逆に遅くなっている。
ことにパッサカリアの第4楽章が絶品で、こうした精密極まりない音楽でゲルギエフの見せるテクニックは誰にも真似できない凄さがあり、ショスタコーヴィチの天才性を改めて実感できる。
終楽章の不思議な重さにもゲルギエフの哲学が感じられる。
ゲルギエフの統率の下、手兵マリインスキー劇場管弦楽団は最高のパフォーマンスを示している。
マルチチャンネル付きのSACDによる極上の高音質録音も、本名演の価値を高めるのに大きく貢献している点を忘れてはならない。
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