2015年07月22日
小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラ plays マーラー
この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。
素晴らしい名演だ。
小澤征爾は、かつて1980年代に手兵のボストン交響楽団とともにマーラーの交響曲全集を録音しているが、問題にならない。
小澤のマーラーの最高の演奏は、手兵サイトウ・キネン・オーケストラとの「第2」(2000年)及び「第9」(2001年)であり、それ以降チクルスが中断されてしまったが、これら両曲については、古今東西の様々な名演の中でも十分に存在価値のある名演と高く評価したい。
小澤はマーラーの「第9」を、ボストン交響楽団の音楽監督としての最後の演奏会で取り上げたほどであり、マーラーのスペシャリストとしての呼び声も高い。
小澤のアプローチは両曲ともにいわゆる純音楽的なものであるが、マーラーの荘重な世界を、熱い魂がほとばしるような演奏で表現している。
小澤のマーラー演奏は東洋的諦念観の理解に裏打ちされていると特徴付けられるが、作曲者と完全に一体化した師バーンスタインの情緒的スタンスから一歩踏み出したオリジナルの強さがここにはある。
小澤のマーラーには、こってりとした民族的な味付けや濃厚な感情移入は感じられず、むしろ絶対音楽として客観視された主旨で統一されている。
バーンスタインやテンシュテットの劇的で主観的なアプローチとはあらゆる意味において対照的であるが、だからと言って物足りなさは皆無。
明晰な響きと自在なリズム、カンタービレのしなやかな美しさ…しかし、何といっても小澤の音楽には絶対的な優しさがあり、この美質が小澤のマーラーを価値あるものにしている要因だろう。
バーンスタインほどオケを振り回さず、しかし客観的になりすぎず、音を丁寧に積み重ねながらぐいぐいと聴く者を引き込んでゆく。
小澤の、楽曲の深みに切り込んでいこうとする鋭角的な指揮ぶりが、演奏に緊張感といい意味でのメリハリを加味することに繋がり、切れば血が出るような熱き魂が込められた入魂の仕上がりとなっている。
サイトウ・キネン・オーケストラも、小澤の確かな統率の下、ライヴとは思えない完成度の高い演奏で指揮者の熱意に応えて、最高のパフォーマンスを示している。
世界中の名手を集めたサイトウ・キネン・オーケストラは、弦も金管も木管もパーカッションも世界で活躍しているソリスト集団なのがわかる豪華なラインナップ。
随所で素晴らしいソロが繰り広げられ、またアンサンブルも臨時編成とは思えない高い完成度を感じさせる。
オーケストラが小澤征爾のバトンのもとで自由自在に歌うさまは、まさに圧巻と言えるだろう。
サイトウ・キネン・オーケストラの持つ緻密なアンサンブル、広いダイナミクスの幅が小澤の棒によって見事にコントロールされ、プレーヤー個々の豊かな表現力と融合し、マーラーの世界を見事に表現している。
録音は、両曲ともに通常盤でも高音質であったが、特に、「第9」については今回はじめてSACD化され、更に鮮明さを増した点が素晴らしい。
他方、「第2」については、かつてSACDのシングルレイヤーディスクとして発売されており、今回のハイブリッドディスクはわずかであるが音質は落ちる。
今回の発売にあたっての不満点はまさにこの点であり、なぜ、「第9」だけの単独発売にしなかったのか、メーカー側の邪な金儲け思想に、この場を借りて大いに疑問を呈しておきたい。
ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング
フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。
コメント一覧
1. Posted by 小島晶二 2023年01月28日 21:08

2. Posted by 和田大貴 2023年01月28日 21:20
素晴らしい名演で、これだけ感動的なマーラーを聴いたのも久しぶりでした。これら両曲については、古今東西の様々な名演の中でも十分に存在価値のある名演と高く評価します。「第9」への小澤のアプローチはいわゆる純音楽的なもので、彼の美質である率直な解釈、音と表情の美しさに加えて、白熱した感興が漲っています。冒頭からしなやかな表情で、作品の多様に変化する情緒を表出しますが、意力の強さが流れに強靭な力を与えています。バーンスタインやテンシュテットの劇的で主観的なアプローチとはあらゆる意味において対照的ですが、だからと言って物足りなさは皆無。小澤の、楽曲の深みに切り込んでいこうとする鋭角的な指揮ぶりが、演奏に緊張感といい意味でのメリハリを加味することに繋がり、切れば血が出るような熱き魂が込められた入魂の仕上がりとなっています。さらに、終楽章コーダの消えゆくような細やかな音も、高音質のおかげでとてもよく聴き取れて、耳を澄ましていると音の向こう側へ吸い込まれてしまいそうな感じを受けました。 私としてはバーンスタインの新盤以来の愛聴盤となりました。「復活」のボストン響盤はダイナミックなものの少しばかり軽いかなと感じていましたが、今回の録音では、ダイナミックさと重厚さが見事に両立しています。サイトウ・キネン・オーケストラも、小澤の確かな統率の下、最高のパフォーマンスを示しています。