2015年05月08日

ミケランジェリのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(スメターチェク)、ピアノ・ソナタ第32番、他[SACD]


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1993年に通常CDで発売された際、音楽評論家諸氏が大絶讃したことで非常な評判となったミケランジェリとスメターチェクの「皇帝」は、長らく入手困難となっていたが、この度オリジナル・マスターからSACD化され、新たに登場した。

ミケランジェリがもっとも脂の乗り切った時期に演奏されたライヴ録音で、実に健康的なベートーヴェンだ。

たいへんスケールの大きな演奏で、しかも細部の彫琢も行き届いていて、出だしからミケランジェリの磨き抜かれた美音と生気あふれるスピード感で、聴き手の心を鷲づかみにする。

この快演ぶりはミケランジェリの数種ある「皇帝」のどれにもない凄さであり、物凄いエネルギーとオーラを放っている。

ミケランジェリのピアノはデリカシーの強調は一切なく、思い入れとは無縁の表現で、アクセントの強い男性的なフォルティッシモを駆使し、スケール雄大に、骨太に、颯爽と進める。

ミケランジェリの良さは、そのようなスタイルをとりながらも落ち着きと風格を保ち、音色自体から生理的な喜びを与えてくれる点。

高音は夜空に打ち上げられる花火のきらめきに、低音は打ち上げ音に、またオーケストラ伴奏は大群衆のどよめきに似て、ひびきと光の饗宴を楽しませてくれる。

とくに高音のきらめきは磨き抜かれた艶をおび、仕掛け花火がつぎつぎに炸裂してゆくようで、眼のさめる思いをさせられる。

ミケランジェリのソロは、タッチが明確で1つ1つの音が美しい余韻を伴っていて全体が清々しい。

これは感覚的な美しさというべきもので、この曲の古典的な様式とロマン的な様式の接点を見事に捉えている。

ピアノの音の純粋な美感をこれほど感じさせる演奏も少なく、アポロン的名演とでも言おうか、ここには理想主義的な「エンペラー」像がある。

全盛期のミケランジェリには、落ち着きと貫録があり、アポロン的清澄度は後年の演奏よりもいっそう高い。

そして目を見張らされるのがスメターチェクのバックであり、充実した響きと推進力あふれる演奏でミケランジェリともども作品のボルテージを高める好伴奏を繰り広げている。

スメターチェクのテンポは速めで引き締まった表情をもち、しかも晴れやかな表情もあって、魅力的だし、オーケストラのみの長い前奏も、ベートーヴェンの交響曲を聴くような気分にさせてくれる。

ベートーヴェンの音楽をミケランジェリ&スメターチェクが自らにぐっと引き付けた希代の名演であり、文句のつけようがない。

さらにSACD化によって従来盤とは比較にならないほどの高音質化が図られ、ライヴ録音なのにピアノとオケのバランスも極上で、今までのどの「エンペラー」よりも素晴らしい。

ミケランジェリによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番も数種の録音が存在するが、技術、覇気、若々しさのいずれの点からも、この1961年ロンドン・ライヴに優るものはない。

ある時はオルガン、ある時はチェレスタのような響きを見せながら、ピアノならではの低音が渦を巻く凄さ、こんな鬼気迫る演奏は滅多に聴けない。

その表現は厳しいとはいえ、音楽そのものは決して冷徹なものではなく、むしろきわめてヒューマニスティックな深い味わいを湛えている。

その他、得意のドビュッシーの「映像」両巻からテンポの遅い2曲ずつ選曲されているが、名盤の誉れ高いDG盤に比べてテンポが速く、また別種の味わいを見せてくれる。

いずれも完璧主義者らしい見事な演奏で、特に定評ある音色の、その色合いが作品ごとに使い分けられているのも素晴らしい。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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