2015年06月11日

テンシュテット&ロンドン・フィルのマーラー:交響曲第1番「巨人」(1990年ライヴ)、他


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これは凄い演奏だ。

これほどまでに心を揺さぶられる演奏についてレビューを書くのはなかなかに困難を伴うが、とりあえず思うところを書き連ねることとしたい。

いずれにしても、テンシュテット&ロンドン・フィルの1990年におけるマーラーの交響曲第1番のライヴ録音が発売されたのはクラシック音楽ファンにとって大朗報とも言えるところだ。

テンシュテットは1985年に咽頭がんを患い、その後は放射線治療を続けつつ体調がいい時だけ指揮をするという絶望的な状況に追い込まれた。

したがって、それ以前の演奏についても、いささかも妥協を許さない全力投球の極めて燃焼度の高い渾身の演奏を繰り広げていたが、1986年以降の演奏は、死と隣り合わせの壮絶な演奏を展開することになるのである。

そうしたテンシュテットの指揮芸術は、最も得意としたマーラーの交響曲の演奏において如実に反映されていると言えるであろう

テンシュテットのマーラーの交響曲へのアプローチはドラマティックの極みとも言うべき劇的なものだ。

これはスタジオ録音であろうが、ライヴ録音であろうが、さして変わりはなく、変幻自在のテンポ設定や思い切った強弱の変化、猛烈なアッチェレランドなどを駆使して、大胆極まりない劇的な表現を施している。

かかる劇的な表現においては、かのバーンスタインと類似している点も無きにしも非ずであり、マーラーの交響曲の本質である死への恐怖や闘い、それと対置する生への妄執や憧憬を完璧に音化し得たのは、バーンスタインとテンシュテットであったと言えるのかもしれない。

ただ、バーンスタインの演奏があたかもマーラーの化身と化したようなヒューマニティ溢れる熱き心で全体が満たされている(したがって、聴き手によってはバーンスタインの体臭が気になるという者もいるのかもしれない)に対して、テンシュテットの演奏は、あくまでも作品を客観的に見つめる視点を失なわず、全体の造型がいささかも弛緩することがないと言えるのではないだろうか。

もちろん、それでいてスケールの雄大さを失っていないことは言うまでもないところだ。

このあたりは、テンシュテットの芸風の根底には、ドイツ人指揮者としての造型を重んじる演奏様式が息づいていると言えるのかもしれない。

テンシュテットは、マーラーの交響曲第1番を本盤と同年の1990年にもシカゴ交響楽団とともにライヴ録音しており、当該演奏の方がオーケストラの優秀さも相俟って最高峰に君臨する名演であるというのは自明の理ではあるが、本盤に収められた交響曲第1番の演奏も圧倒的な超名演であり、我々聴き手の肺腑を打つのに十分な凄みのある迫力を湛えていると評価したい。

遅めのテンポで、細部まで抒情的に歌い込んだ美しい演奏で、何時にも増してテンポを細かく揺らし、細部の表現にこだわり音楽に没入していくが、テンシュテットの精妙な表現と一体化するロンドンフィルが見事で、冒頭から緊張感が途切れることなく、音楽はどこまでも自然に流れ高揚する。

喉頭がんの発病による活動休止から明けてのテンシュテットは、以前にもまして独特の凄みが加わったといわれるように、このフィナーレでも異常な緊迫感と熱気をはらんだ演奏内容となっている。

オーケストラは必ずしも一流とは言い難いロンドン・フィルであるが、テンシュテットのドラマティックな指揮に必死に喰らいつき、テンシュテットとともに持ち得る実力を全面的に発揮させた渾身の演奏を繰り広げていると言えるところであり、本演奏を超名演たらしめるのに大きく貢献しているのを忘れてはならない。

カップリングのグリンカはテンシュテット初のレパートリーで、喉頭がんを発病する以前のもの(1981年)であるが、こちらも燃焼度の高い爆演を展開している。

なお、ボーナストラックには、テンシュテットがマーラーについて語る貴重なインタビューも収められている。

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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