2022年04月25日

日本を代表する`シューベルト弾き`としてのポジションを確立した田部京子が誠心誠意取り組んできた後期作品集


この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。



本BOXには、田部京子が誠心誠意取り組んできた、シューベルト後期作品集が収められている。

クラシック音楽の世界には、この世のものとは思えないような至高の高みに達した名作というものが存在する。

ロマン派のピアノ作品の中では、何よりもシューベルトの最晩年に作曲された最後の3つのソナタがそれに相当するものと思われる。

その神々しいとも言うべき深みは、ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ群やブラームスの最晩年のピアノ作品にも比肩し得るだけの崇高さを湛えていると言っても過言ではあるまい。

これだけの至高の名作であるだけに、これまで数多くの有名ピアニストによって様々な名演が成し遂げられてきたところだ。

個性的という意味では、アファナシエフによる演奏が名高いし、精神的な深みを徹底して追求した内田光子の演奏もあった。

また、千人に一人のリリシストと称されるルプーによる極上の美演も存在している。

このような海千山千のピアニストによるあまたの名演の中で存在感を発揮するのは並大抵のことではないと考えられるが、田部京子による本演奏は、ブレンデル、シフの系統に繋がる、楽譜を研究し尽くした理知的なシューベルトが楽しめる逸品であり、その存在感を如何なく発揮した素晴らしい名演を成し遂げたと言えるのではないだろうか。

1994年リリースのシューベルト:ピアノ・ソナタ第21番において「次代を担う真に傑出した才能の登場」として、極めて高い評価を得た田部京子。

その後、発表した5枚のシューベルト・アルバムは、その全てがレコード芸術誌で特選を獲得し、田部は、日本を代表する「シューベルト弾き」としての比類なきポジションを確立した。

この田部の録音したシューベルトの後期3大ソナタを含む主要なピアノ作品をCD5枚のBOXは、シューベルト最晩年の深い諦観の世界をおのずと明らかにしてゆく、田部の極めて説得力の強い演奏の全貌が明らかになっている。

田部京子による本演奏は、何か特別な個性を施したり、はたまた聴き手を驚かせるような斬新な解釈を行っているというわけではない。

むしろ、スコアに記された音符を誠実に音化しているというアプローチに徹していると言えるところであり、演奏全体としては極めてオーソドックスな演奏とも言えるだろう。

とは言っても、音符の表層をなぞっただけの浅薄な演奏には陥っておらず、没個性的で凡庸な演奏などということも決してない。

むしろ、徹底したスコアリーディングに基づいて、音符の背後にあるシューベルトの最晩年の寂寥感に満ちた心の深層などにも鋭く切り込んでいくような彫りの深さも十分に併せ持っていると言えるところであり、シューベルト後期作品に込められた奥行きの深い情感を音化するのに見事に成功していると言っても過言ではあるまい。

いずれにしても本演奏は、シューベルト後期作品のすべてを完璧に音化し得るとともに、女流ピアニストならではのいい意味での繊細さを兼ね備えた素晴らしい名演と高く評価したいと考える。

演奏全体に漂う格調の高さや高貴とも言うべき気品にも出色のものがあると言えるだろう。

しっとりと落ち着きのある音色と、清冽極まりないピアニズム、そして情感豊かな歌いまわしと深みを感じさせる表現等々、シューベルトのピアノ曲の妙味を引き出すのに過不足のない演奏が充溢している。

一方、「さすらい人幻想曲」は、ひとつのモチーフを中心に変奏手法を使って、ベートーヴェン的有機構造物を構築しようとした作品だが、田部は、その豊かな弱音のニュアンスを駆使して、強音がさほど強くなくてもしっかりと対比され、ダイナミズムが広く聴こえ、したがって大きなスケール感も出てくるという演奏を繰り広げていて、無理がなく、しかも美しい。

本BOXは、いつでもいつまでも聴いていたいと思わせる名演の集成と言えるだろう。

ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング



フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室



classicalmusic at 05:44コメント(0)シューベルト  

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
メルマガ登録・解除
 

Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

よろしくお願いします(__)
Categories
Archives
Recent Comments
記事検索
  • ライブドアブログ