2018年04月23日
モーツァルト没後200年記念企画〜レヴァインとウィーン・フィルによる交響曲全集
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モーツァルト没後200年記念として企画されたレヴァインとウィーン・フィルによる交響曲全集は、極めて高い評価を得た。
レヴァインはオーケストラの個性や特質を十全に引き出して、豊かな情感を湛えた造形美に溢れる演奏を繰り広げている。
オーケストラの伝統的な響きの美しさと指揮者の新鮮な解釈とが見事なまでに合致した名演集である。
相変わらず粒立ちのよいきびきびとしたリズム、しなやかに流れる歌、そしてふくらみのある美しい響き、彼らの演奏はどこをとっても隙がなく、しかも芳醇な香りが満ちている。
何よりも得難い特質は、伝統的なモーツァルト像と新しいモーツァルト像との見事な融合を成し遂げていることである。
モーツァルト像の刷新は、伝統的な側面だけでなく演奏の実践の領域でも、急速に進んでいる。
作曲当時の楽器や演奏習慣に立ち戻ることによって、19世紀のロマンティックな垢を洗い落とし、素顔のモーツァルトを現代に蘇らせようという活動は、今や完全に定着しつつある。
だがこうした傾向は、ともすれば19世紀以来の伝統をことごとく否として退けることになりかねない。
音楽が文化として、歴史の流れの中で脈々と受け継がれていくものであるならば、伝統を踏まえ、それを生かしつつ新しいモーツァルト像に立ち向かうという道もまた、あるはずである。
19世紀以来のモーツァルト演奏の伝統を自ら作ってきたと言っても決して過言ではないウィーン・フィルが、交響曲の全曲録音という大事業を挑むにあたって選んだのは、そういう道であった。
そしてそれを実現にまで導くことのできる指揮者として、彼らはレヴァインを指名したのである。
1943年にシンシナティで生まれたレヴァインは、ジュリアード音楽院を卒業後、クリーヴランド管弦楽団のセルのもとで6年間副指揮者を務め、その後あちこちの客演の舞台に立ちながら1973年にメトロポリタン歌劇場の首席指揮者に就任、75年以降は音楽監督を務めながら国際的な活躍を展開してきた。
レヴァインは出世のスピードは速かったが、コンクール歴があるわけでもなく、若手には珍しくいわば現場でたたき上げられて育ってきた指揮者である。
伝統的な演奏のスタイルは、その過程で完全に身に染みついている。
一方で彼は、オリジナル主義的な演奏のあり方にも充分な理解と関心を示し、その成果を積極的に取り入れようとするのである。
弦楽器のヴィブラートを伴う艶やかな響きや管楽器の音色のブレンド、息の長いフレージングなど、モダン楽器の特質を存分に生かしながら、一方では編成を小さくしてテクスチュアを明晰化し、オリジナルの楽器配置を踏まえることで、例えば第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの掛け合いの効果を立体的に浮き彫りにする。
すべての繰り返し記号を忠実に守っているのも、作品のオリジナルな姿を尊重しようとする彼の姿勢に他ならない。
伝統的なモーツァルト像と新しいモーツァルト像の間には、大きなギャップがある。
それを克服するのが我々に課せられた今後の課題であり、レヴァインとウィーン・フィルは、演奏実践の面からその課題に挑んだ。
そしてそれが確かな成果を上げてきたということを、この全集は証明しているように思われる。
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