2015年05月19日

トモワ=シントウ&カラヤンのR.シュトラウス:4つの最後の歌、他


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本盤は、R.シュトラウスを最も得意としたカラヤンが、《ばらの騎士》の元帥夫人などで共演し、高く評価し信頼していたトモワ=シントウを起用しての歌曲集が収められたアルバムである。

演奏は1985年のスタジオ録音であるが、これはいわゆるザビーネ・マイヤー事件の勃発後であり、カラヤンとベルリン・フィルの関係が修復不可能にまで悪化した時期である。

本盤に収められた「4つの最後の歌」は、「メタモルフォーゼン」と並ぶ作曲者の人生の最後を飾る畢生の名曲であるが、カラヤンには、1973年にヤノヴィッツと共演した録音があり、それはヤノヴィッツのこの上ない美声も相俟って、カラヤン&ベルリン・フィルの全盛時代を象徴する極上の美演に仕上がっていた。

当該演奏は、ベルリン・フィルの一糸乱れぬ鉄壁のアンサンブルと各楽器セクションの超絶的な技量を駆使した名演奏に、カラヤンによる流麗なレガートが施された、まさにオーケストラ演奏の極致とも言うべき圧倒的な音のドラマの構築に成功していたと言える。

この超名演に対して、本盤の演奏は、カラヤンとの関係に大きな亀裂が生じた時代のベルリン・フィルとの演奏。

それでも、さすがにカラヤンならではの重厚で、なおかつ極上の美しさを兼ね備えた名演とは言えるが、1973年盤と比較すると、前述のような両者の関係の亀裂やカラヤン自身の健康悪化もあって、カラヤンの統率力にも綻びが見られるところであり、演奏の精度や完成度といった点においては、若干ではあるが落ちると言わざるを得ないだろう。

しかしながら、本盤の演奏には、晩年のカラヤンならではの枯淡の境地とも言うべき独特の味わい深さがあるとも言えるところであり、前述の1973年盤とは異なった独特の魅力があると言えるのではないだろうか。

本盤の「4つの最後の歌」では、ことに後半の2曲などは素晴らしく、R.シュトラウスが死の前に書いた人生への訣別の思いがよく表れている。

カラヤンに見出され、育てられたトモワ=シントウの、情感豊かな表現が、この作品の陶酔的な世界を遺憾なくあらわしている。

彼女は、R.シュトラウスの特質である息の長いフレーズを、しなやかに気負いなく美しく歌い上げ、カラヤンの指揮さばきと見事に一体化して、R.シュトラウスの音楽の精髄を存分に堪能させてくれる。

ベルリン・フィルの洗練の極みを行く合奏と、トモワ=シントウの豊麗な声が作曲者晩年の澄み切った境地を余すところなく再現している。

トモワ=シントウもさることながら、ここでは心憎いほど巧妙なカラヤンの棒の魔術に酔わされる。

静寂感・黄昏感といった、R.シュトラウスの交響詩とまるで違う世界がこの曲にはあるが、R.シュトラウスが得意なカラヤンがベルリン・フィルと共にシルクのような煌びやかな伴奏をしている。

したがって、本盤の演奏は、音のドラマとしてはいささか綻びがみられると言えるものの、人生の諦観さえ感じさせる味わい深さという意味においては、筆者としては素晴らしい名演として高く評価したいと考える。

それにしてもトモワ=シントウの声と情感豊かさは、R.シュトラウス作品にほんとうにふさわしい。

この中で最も見事なのは「カプリッチョ」からの2曲で、トモワ=シントウが伯爵夫人の心の揺れ動きを、カラヤンと呼吸をひとつにして、役になりきって歌っている。

トモワ=シントウの表現力とカラヤン芸術が、R.シュトラウスの音楽への共感をきわめて美しく澄んだ表現によって伝えた名演というべきだろう。

音質については、これまでリマスタリングが行われたこともあって、従来CD盤でも十分に良好な音質であったが、今般ルビジウム・クロック・カッティングを施された上にSHM−CD化されたことよって、若干ではあるが音質が鮮明になるとともに、音場が幅広くなったように思われる。

いずれにしても、トモワ=シントウ、カラヤンによる素晴らしい名演をSHM−CDによる高音質で味わうことができるのを大いに喜びたいと考える。

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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