2015年06月20日

ジュリーニ&ロンドン響のベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」


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ジュリーニは、イタリア人指揮者であるが、独墺系の作曲家による楽曲も数多く演奏した大指揮者であった。

ブラームスの交響曲全集は2度も録音しているのに対して、意外にもベートーヴェンの交響曲全集は1度も録音していないところだ。

これほどの大指揮者にしては実に不思議と言わざるを得ないと言えるだろう。

ジュリーニは、最晩年に、ミラノ・スカラ座歌劇場フィルとともに、ベートーヴェンの交響曲第1番〜第8番を1991〜1993年にかけてスタジオ録音を行った(ソニー・クラシカル)ところであり、残すは第9番のみとなったところであるが、1989年にベルリン・フィルとともに同曲を既にスタジオ録音していた(DG)ことから、かつて在籍していたDGへの義理立てもあって、同曲の録音を行わなかったとのことである。

このあたりは、いかにもジュリーニの誠実さを物語る事実であると言えるが、我々クラシック音楽ファンとしては、いささか残念と言わざるを得ないところだ。

それはさておき、本盤に収められているのは、1972年にロンドン交響楽団他とともにスタジオ録音を行った交響曲第9番である。

他にライヴ録音が遺されているのかもしれないが、前述のようにベルリン・フィル(1989年)と録音することになることから、その演奏の約20年前のものとなる。

1972年と言えば、ジュリーニの全盛期であるだけに、演奏は、諸説はあると思うが、後年の演奏よりも数段優れた素晴らしい名演と高く評価したい。

1976年にDGに移籍したジュリーニがマーラーの「第9」で一気にスターダムにのし上がる4年前の録音であるが、指揮者の円熟は誰の耳にも明らかで、余裕をもったテンポで内声部をおろそかにせず全ての楽器が伸びやかに歌う流麗な音楽は名前を伏せてもジュリーニだと確信させられる。

ジュリーニの演奏スタイルはテンポを遅めにとり、ズッシリとスケール感のあるベートーヴェンが魅力的で、この最初のEMI録音はその原点とも言えるだろう。

何よりも、テンポ設定が、後年の演奏ではかなり遅めとなっており、演奏自体に往年のキレが失われているきらいがあることから、筆者としては、ジュリーニによる「第9」の代表盤としては、本盤を掲げたいと考えているところだ。

演奏の様相はオーソドックスなもので、後年の演奏とは異なり、ノーマルなテンポで風格豊かな楽想を紡ぎ出している。

細部にまで行き届いた眼力、明確な構成力と美しい音色、ゆっくりとしたテンポによる、あくまで音の明晰さを追求した、ジュリーニならではの「第9」で、音の運びにも停滞感がなく、明確な構成力がきっちりと聴き手に伝わってくる。

落ち着いたテンポ設定によるスケールの大きなアプローチをベースに、ノーブルなカンタービレと、ジュリーニならではのこだわりをみせている点がとても印象的で、重量感に富むフレージング、細部まで考え抜かれた凝った演奏は、ファンにはたまらないところだ。

そして、ジュリーニならではいささかの隙間風の吹かない、粘着質とも言うべき重量感溢れる重厚な響きも健在であるが、いささかの重苦しさを感じさせることはなく、歌謡性溢れる豊かな情感が随所に漂っているのは、イタリア人指揮者ならではの面目躍如たるものと言えるだろう。

いわゆる押しつけがましさがどこにも感じられず、まさにいい意味での剛柔のバランスがとれた演奏と言えるところであり、これは、ジュリーニの指揮芸術の懐の深さの証左と言っても過言ではあるまい。

ロンドン交響楽団もジュリーニの統率の下、名演奏を展開しており、シーラ・アームストロング(ソプラノ)、アンナ・レイノルズ(アルト)、ロバート・ティアー(テノール)、ジョン・シャーリー=カーク(バス)といった独唱陣やロンドン交響合唱団も最高のパフォーマンスを発揮している。

いずれにしても、本演奏は、ジュリーニならではの素晴らしい名演であるとともに、ジュリーニによる同曲の演奏の代表的な名演と高く評価したいと考える。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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