2015年05月15日

フリッチャイ&ウィーン響のモーツァルト:交響曲第29番、第39番、第40番、第41番「ジュピター」


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白血病という不治の病を患い、49歳という若さでこの世を去らなければならなかった悲劇の指揮者フリッチャイであるが、米国において鉄壁のオーケストラトレーナーとして君臨した同じハンガリー人指揮者のライナーやセル、オーマンディ、そしてショルティなどとは一線を画するようなヒューマニティ溢れる情感豊かな演奏を行っていた。

同じハンガリー人指揮者であったケルテスの海水浴中の不慮の死と同様に、そのあまりにも早すぎる死は、クラシック音楽界にとっても一大損失であった。

仮にもう少しフリッチャイが長生きをしていれば、世界の指揮者地図は大きく塗り替えられることになったのではないかとさえ思われるほどだ。

本盤に収められたウィーン交響楽団とのモーツァルトの交響曲集は、フリッチャイの活躍の舞台が国際的になってからの晩年の録音で、既に白血病を発症したフリッチャイが、懸命の闘病生活の中で演奏を行ったものである。

それだけに、本演奏にかけたフリッチャイの気迫と執念には並々ならぬものがあったことは容易に想像がつくところだ。

フリッチャイのモーツァルトへの熱い共感と晩年の芸風が端的に示された演奏のひとつで、特に第40番のゆったりと大きなうねりをもった運びと豊かなロマンを湛えた表現は独特である。

と同時に、その演奏は、美しく引き締まった音楽の流れと推進力を常に失うことがない。

あたかも、間近に迫る死を予見しているかのような不気味さを湛えているところであり、若干のテンポの変化を交えつつ、1音1音を心を込めて歌い抜き、彫りの深い演奏を展開しているところだ。

その尋常ならざる心の込め方は、時には慟哭にさえ聴こえるほどであり、あたかも忍び寄る死に対して必死で贖おうとするフリッチャイ自身を彷彿とさせるように思われてならない。

非常にゆったりとしたテンポによる演奏ではあるが、冗長さを感じさせず、演奏全体の造型もいささかも弛緩することがない。

そして、これだけ思い入れたっぷりの渾身の熱演を展開しているにもかかわらず、同曲のモダン楽器による演奏において時として見られる陳腐なロマンティシズムに陥ることがなく、どこをとっても格調の高さを失っていないのが素晴らしい。

他方「ジュピター」は、健やかで厳しい表現としなやかに強い音楽の変化が印象的で、ここでも緩徐楽章における豊かに澄んだ気宇の大きな歌が味わい深い。

ここでフリッチャイは、初期からの特徴である明快なリズムやフレージングを保ちながら、表情がいっそう豊かになり、それが演奏に奥行きを与えている。

フリッチャイの演奏様式は、彼に先立つ巨匠たちとは違い、力強くはあっても重くなく、「ジュピター」交響曲にふさわしい威厳と爽やかな気分とを調和させ、彼の円熟を示す演奏の1つと言えよう。

晩年のフリッチャイの演奏に共通しているのは、まさにこうして全人格的に音楽を受け止め、厳しく核心を突いたその表現と言うべきだろう。

49歳で世を去ったフリッチャイは、確かに道半ばで倒れた夭逝の音楽家であり、いわゆる巨匠という範疇には入らない指揮者なのかもしれない。

特に晩年の演奏には、病気をおして短期間にそのキャリアを全力で走り抜けたが故の傷があるのも確かである。

しかし、それだけにまたフリッチャイが、その短い晩年に成し遂げたような変貌と円熟ぶりは、他に例がないと言って良いだろう。

そこには通常は何十年という時間と経験がもたらす円熟とはまた違った、極めて人間的な、そして切実なまでの純粋さと美しさをもった世界がある。

ここには肉体的な危機の中でも音楽に対する情熱を失うことのなかったフリッチャイの音楽家としての志の高さが、はっきりと刻印されている。

そして、まさにこのことが、今も聴き手の心を打ち、その個性的な輝きを失わない理由と言って良いだろう。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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