2015年08月27日

バレンボイムのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集(新盤)


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既に指揮者としても第一級の評価を与えられているバレンボイムであるが、ピアニストとしての彼の活動も忘れるわけにはいかない。

バレンボイムほどに自身の音楽家としての将来に一貫した計画をもち、それに沿って着実に充実を計ってきた演奏家も珍しいのではないだろうか。

ピアニストとしてのバレンボイムは、1回ごとのヴァラエティに頼ったプログラムでのコンサートよりも、モーツァルトやベートーヴェンのソナタや協奏曲の連続演奏会や、ロマン派のピアノ作品のシリーズ演奏会などを通じて、まとまりのある音楽的な体験を聴き手と共有してきた。

指揮者バレンボイムも同様に1975年から首席指揮者・音楽監督をつとめたパリ管弦楽団や、1991年から音楽監督をつとめたシカゴ交響楽団、1992年から音楽監督の地位にあるベルリン州立歌劇場、多く客演するベルリン・フィルやウィーン・フィルなどを通じて、しっかりと目標を定めたプログラミングで演奏活動を行ってきている。

バイロイト音楽祭も含めたそれは、その場の成功だけではなく、将来へ向けての自らの滋養となる音楽を厳選しての活動である。

こうした活動のうちに、バレンボイムは他の人にはなかなか明かさない「最終目標」を秘めていたかのように思えた。

そのひとつがベートーヴェンの「交響曲全曲の録音」で、「自分が確信をもてるオーケストラの地位を得たときに初めて、確信ある演奏で録音したい」と、これほどまでに経験豊かな指揮者としては用心深く慎重な態度を崩さなかったが、先般、シュターツカペレ・ベルリンとともにベートーヴェンの交響曲全集を録音したのは感銘深かった。

そのバレンボイムがピアニストとしてもこうして、実に3度目となるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を録音してくれたのは、彼のベートーヴェンに関心をもつ者にとっては何よりうれしいことである。

先にも記したように、バレンボイムはキャリアの比較的初期からベートーヴェンのソナタ全曲演奏会を各地で開いてきている。

だから、これも慎重を期しての録音なのだろうが、演奏のどこにも慎重さゆえの堅苦しさはなく、音楽は豊かに解放され、その随所で美しい薫りを漂わせている。

バレンボイムは指揮とピアノの両方を二足のわらじとも、相反するふたつのレヴェルのものだとも考えてはいない。

「私に関する限り、音と肉体的な接触をもつことが、どうしても必要なのです。演奏と指揮は私にとって、ひとつの物事の裏と表なのです」「ピアノを演奏しているときには、自分が指揮者であると思って、自分の演奏をほかの誰かの演奏を聴くように第三者として聴こうと試みます。それとは逆に指揮をしているときには、楽器を演奏しているような気持ちをもちます。このふたつは決して相反するものではないのです」(バレンボイム)

このベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集に私たちが聴くのも、“第三者の耳で吟味された音楽”である。

ただしその第三者も、当面する楽器の技巧や表現法に縛られる“いまピアノを弾いているピアノ演奏家としての彼”ではないにしても、広く豊かな経験を有する“音楽家バレンボイム”に他ならないことこそが素晴らしいのである。

「偉大な指揮者は、作曲家や器楽奏者としても優れていなければならない」というバレンボイムの言葉は逆に、「偉大な演奏家であるためには、指揮者のような客観性が必要」だとも聞けるのである。

ここに聴かれるベートーヴェンのソナタは、いずれもいわゆる一般的な意味での「名演奏」を遥かに超えている。

まず第一にテンポの設定とその扱いの自由さには、誰もが瞠目させられるに違いない。

音楽の勢いを表出するために表面的な活気を演出するのではなく、相対的には落ち着いたテンポが選ばれているが、旋律の味わいや和声の変化に添って自然に息づく精妙なニュアンスには、たとえようもなく広がりと奥行きのある楽興が横溢している。

バレンボイムの卓越したベートーヴェン解釈は、まるで交響曲を指揮するかのごとく各パートが立体的に扱われ、信じられないほどに多彩な音色感とデュナーミクが駆使されており、他のベートーヴェン演奏では聴けない充足感がある。

聡明さと音楽表現への意欲、そして愛情がひとつに結ばれて、ベートーヴェンのソナタがこれまで以上に含蓄あるものとして聴き手を存分に触発する優れた演奏である。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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