2015年06月25日
マッケラスのヤナーチェク:グラゴル・ミサ
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村上春樹氏の小説によってさらに脚光を浴びることになったヤナーチェク。
巷間、チェコの作曲家としては、第1にスメタナ、第2にドヴォルザーク、第3にヤナーチェク、そして第4にマルチヌーとされているところだ。
しかしながら、楽曲の質の高さ、他の作曲家への影響力の大きさなどを総合的に勘案すれば、ヤナーチェクはチェコの第3の作曲家などではなく、むしろスメタナやドヴォルザークを凌駕する存在と言えるのではないだろうか。
モラヴィアの民謡を自己の作品の中に高度に昇華させて採り入れていったという巧みな作曲技法は、現代のベートーヴェンとも称されるバルトークにも比肩し得るものであると言えるし、「利口な女狐の物語」や「死者の家から」などといった偉大なオペラの傑作は、20世紀最大のオペラ作曲家とも評されるベンジャミン・ブリテンにも匹敵すると言えるところだ。
そして、ヤナーチェクの最高傑作をどれにするのかは議論を呼ぶところであると考えられるところであるが、少なくとも、本盤に収められたグラゴル・ミサは、5本の指に入る傑作であるというのは論を待たないところである。
グラゴルとは古代スラヴ王国でキリスト教布教のために用いられた文字のことで、4人の独唱者、混声合唱、管弦楽とオルガンのために書かれた大規模な作品である。
同曲には、オペラにおいて数々の名作を作曲してきたヤナーチェクだけに、独唱や合唱を巧みに盛り込んだ作曲技法の巧さは圧倒的であると言えるし、モラヴィア民謡を巧みに昇華させつつ、華麗な管弦楽法を駆使した楽想の美しさ、見事さは、紛れもなくヤナーチェクによる最高傑作の1つと評してもいささかも過言ではあるまい。
本盤では、世界最高のヤナーチェクの権威で、チェコ音楽のオーソリティーであるマッケラスが心を込めてヤナーチェクの大作を指揮して遺した決定的名盤。
マッケラスは、こうした偉大な作曲家、ヤナーチェクに私淑し、管弦楽曲やオペラなど、数多くの録音を行っている、自他ともに認めるヤナーチェクの権威であり、ウィーン・フィルやチェコ・フィルとの数多くの演奏はいずれも極めて優れたものだ。
本盤に収められたチェコ・フィルや、優れた独唱者(特に第3楽章スラヴァのゼーダーシュトレームのソプラノ独唱は喜びと輝きに溢れていて心が満たされる)、そしてプラハ・フィルハーモニー合唱団を駆使した同曲の演奏は、ヤナーチェクの権威であるマッケラスならではの同曲最高の名演と評価したいと考える。
マッケラスの指揮は明快で曖昧さが皆無であり、アンチェル盤やクーベリック盤等と比較すると、常に作品と一定の距離を置いたアプローチとも感じられる。
しかし、後の再録音盤のように曲を手の内に引き込みすぎて却って作為的になりすぎるような事は無く、曲の魅力を十二分に堪能できるのが嬉しい。
本盤がこのヤナーチェクの傑作グラゴル・ミサの最有力盤としているのは、やはりそのテンションであろう。
主題の目まぐるしい展開がヤナーチェクの特徴であるが、それをテンション高く、エキセントリックさを十二分に伝えており、同じチェコ・フィルでも、アンチェル盤では、エキセントリックさがなく、スケール大きな把握の演奏で、さすがターリッヒ直弟子のマッケラスは、モラヴィアの心まで自家薬籠中のものにした感がある。
スケールの雄大さ、そして独唱者や合唱団のドライブの巧みさ、情感の豊かさのいずれをとっても非の付けどころのない高水準の演奏であり、途中で挿入されるオルガン・ソロの歯切れが悪いことと、録音のせいかオケがやや薄い響きになるのが残念だが、合唱の出来は万全と言って良く、筆者としては、本演奏こそは、同曲演奏の理想像の具現化と評価するのにいささかも躊躇するものではない。
いずれにしても、ヤナーチェクの傑作グラゴル・ミサを、マッケラス&チェコ・フィルをはじめとしたチェコの独唱者や合唱団による素晴らしい名演で味わうことができるのを大いに喜びたい。
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