2015年06月06日
ウィルヘルム・ケンプ 1961年 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲連続演奏会ライヴ
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ドイツの巨匠ピアニスト、ウィルヘルム・ケンプ(1895-1991)は1961年10月に来日し、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を7夜にわたり連続演奏を行った。
単独のピアニストがベートーヴェンのピアノ・ソナタを全曲集中して演奏することは日本初だったとされ、日本音楽界の一大イベントとして非常な話題となったということである。
当時ケンプは66歳で、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は、1950〜56年のモノラルと1964〜65年のステレオの2種のセッション録音が存在し、いずれも屈指の名盤と高く評価されているが、その中間期、ケンプ最盛期の全集がもうひとつ存在したことは驚愕の極み。
歴史的資料としても貴重な演奏で、全盛期のケンプのピアニズムを堪能できる演奏内容となっている。
いずれの楽曲も至高の名演と高く評価したい。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音は現在でもかなり数多く存在しており、とりわけテクニックなどにおいては本全集よりも優れたものが多数あると言える。
ケンプによる録音に限ってみても、前述の2つのスタジオ録音の方が、演奏の完成度に関しては断然上にあると言えるが、演奏の持つ閃きやファンタジーにおいては、本演奏がダントツであると言えるのではないだろうか。
本全集におけるケンプによるピアノ演奏は、例によっていささかも奇を衒うことがない誠実そのものと言える。
ドイツ人ピアニストならではの重厚さも健在であり、全体の造型は極めて堅固である。
また、これらの楽曲を熟知していることに去来する安定感には抜群のものがあり、大胆不敵でエネルギッシュな一面を覗かせながら、緩徐部分でのケンプの穏やかな語り口は朴訥ささえ感じさせるほどだ。
しかしながら、一聴すると何でもないような演奏の各フレーズの端々から漂ってくる滋味に溢れる温かみには抗し難い魅力があると言えるところであり、これは人生の辛酸を舐め尽くした晩年の巨匠ケンプだけが成し得た圧巻の至芸と言えるだろう。
筆者としては、ケンプの滋味豊かな演奏を聴衆への媚びと決めつけ、厳しさだけが芸術を体現するという某音楽評論家の偏向的な見解には到底賛成し兼ねるところである。
ケンプによる名演もバックハウスによる名演もそれぞれに違った魅力があると言えるところであり、両者の演奏に優劣を付けること自体がナンセンスと考えるものである。
全曲を通して聴いて驚いたのは、大変エネルギッシュでしかも力強い演奏でありながら、自由自在、奔放で即興的かつ詩的な味わい深い演奏となっていることである。
ピアニストは年輪を重ねるごとにテンポを落として深みのある演奏を聴かせる人が多いが、それはまた同時にテクニックの衰えを隠す一面もあることも否めない。
しかし、ケンプの演奏は速めのテンポを崩すことなく、音楽を前進させていく。
そのため、ミスタッチも目立つ演奏になることがあるが、そのこと自体が演奏の価値を貶める結果に陥っておらず、このCDを演奏順に聴いていくことでケンプの息遣いを追体験できるのである。
ケンプはライヴで最良の面が発揮されるピアニストのため、回を重ねるごとに自由かつ雄弁となり、後期作品では人間業とは思えぬ境地に達し、まさにピアノ音楽史上の至宝の音源と言えるだろう。
要するにケンプのすべてを体験できるのが今回のNHK盤だと確信したところであり、ケンプ・ファン必聴のベートーヴェンここにありと言えよう。
すべてNHKがラジオ放送用に収録したもので、モノラル録音でありながら当時最高の技術が駆使されていて、ステレオ録音にも負けない秀逸な録音となっており、ケンプの生演奏を余すところなく楽しめる演奏となっている点において、歴史的名演であることは間違いない。
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