2015年05月29日

小澤&ボストン響のバルトーク:管弦楽のための協奏曲(初演版)、バレエ「中国の不思議な役人 」(全曲版)


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ここ数年間は大病を経験するなど体調が思わしくなくて、ファンを焼きもきさせている小澤であるが、本盤に収められたバルトークの最も有名な楽曲である管弦楽のための協奏曲とバレエ「中国の不思議な役人」 の演奏は、小澤が最も精力的に活動していたボストン時代のものだ。

それだけに、演奏全体にエネルギッシュな力感が漲っており、いずれも素晴らしい名演に仕上がっている。

バルトークの楽曲は、管弦楽曲にしても、協奏曲にしても、そして室内楽曲などにしても、奥行きの深い内容を含有しており、必ずしも一筋縄ではいかないような難しさがある。

したがって、そうした楽曲の心眼を鋭く抉り出していくような演奏も、楽曲の本質を描出する意味において効果的であるとは言える。

またその一方で、各楽曲は、ハンガリーの民謡を高度に昇華させた旋律の数々を効果的に用いるなど巧妙に作曲がなされており、それをわかりやすく紐解いていくような演奏もまた、バルトークの楽曲の演奏として十分に魅力的であるのも事実である。

小澤のアプローチは、明らかに後者の方であり、両曲の各楽想を精緻に、そして明朗に描き出して行くという姿勢で一貫していると言えるだろう。

全盛時代の小澤ならではの躍動するようなリズム感も見事に功を奏しており、両曲をこれ以上は求め得ないほどに精密に、そしてダイナミックに描き出すことに成功したと言えるところだ。

それでいて、抒情的な箇所は徹底して歌い抜くとともに、目まぐるしく変転する曲想の表情づけも実に巧みに行われており、スコアに記された音符の表層だけをなぞっただけの薄味な演奏に陥っていないのが素晴らしい。

そして、壮年期の小澤ならではの、トゥッティに向けて畳み掛けていくような気迫と、前述のようなエネルギッシュな力感に溢れた強靭な生命力においてもいささかの不足はない。

前述のように、かつてのライナー(管弦楽のための協奏曲)やドラティ(バレエ「中国の不思議な役人」)の演奏のような楽曲の心眼に切り込んだいくような鋭さは薬にしたくもない。

しかし作品のもつ冷徹な音のドラマを生々しく表現し、これら両曲のオーケストラ音楽としての魅力を存分に満喫させてくれるという意味においては、そして、これら両曲を安定した気持ちで味わうことができるという意味においては、素晴らしい名演と高く評価したいと考える。

特にオーケストラの各パートを独奏楽器に起用した、華やかな演奏効果で知られる管弦楽のための協奏曲は、ボストン交響楽団が初演したゆかりの作品であるだけに、この演奏では、ひとつひとつの音に血が通っているかのように音楽が息づき、実に彫りの深い表現を生み出している。

動的な曲想をもつがゆえに、ワイルドなサウンドがもてはやされがちなバルトークであるが、小澤の音に接すれば、それがいかに偏った解釈かよくわかる。

小澤34歳時のEMIレーベルへのデビュー録音も管弦楽のための協奏曲であり、それは「若武者」として勢い充分にオーケストラをドライヴする小澤の指揮姿を彷彿とさせる演奏であったが、この再録音ではさらにスコアが透けて見えるような緻密さも併せ持っている。

そして、曲に込められた哀しみや自虐の歌が克明に浮かび上がるのは、小澤&ボストン交響楽団の20年の成果を示す見事な演奏と言えるだろう。

小澤の精緻にしてエネルギッシュな指揮の下、渾身の名演奏を繰り広げたボストン交響楽団にも大きな拍手を送りたい。

小澤は2004年にもサイトウ・キネンと管弦楽のための協奏曲(カップリングは弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽)をライヴ録音しており、そちらも名演ではあるが、完成度においてボストン盤に軍配をあげたい。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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