2015年06月08日

ケーゲルのシェーンベルク:歌劇「モーゼとアロン」


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鬼才ケーゲルが解き明かしてみせたシェーンベルクの奥義。

ケーゲルは、現代音楽に造詣が深く、数多くの名演を遺しているが、それらの中でも、シェーンベルクの「モーゼとアロン」は、過去のあらゆる演奏の中でも最高の出来映えを示している。

ケーゲルの演奏は、スコアに記された音符の背後にあるものに徹底してメスを入れ、楽曲の心眼とも言うべき精神的な深みに鋭く切り込んでいくとともに、それらを現代人の持つ感覚を持って、一切の情感を排して冷徹に描き出すという途轍もない凄みを有している。

ひとたびこのCDを再生するや、シェーンベルクの音楽の真剣で凄まじい気迫に圧倒され、溢れ出る豊かな音楽性と計算されつくした見事な構築美、それにこの上なく高潔な魂の存在に胸を打たれ、たちまちその虜になってしまうだろう。

「モーゼとアロン」はそのような途方もない作品であり、その偉大さを曇らせることなくわれわれに伝えてくれるのが、このケーゲルによる演奏なのである。

ケーゲルは、いわば現代音楽のプロとも呼べるような存在であったが、この難しい音の構成物を正確に技術的に処理し、再現する能力の優秀さはもちろんのこと、シェーンベルクの音楽特有の精神の高さ、厳しさ、純正さを演奏の隅々まで浸透させていく音楽家としての資質には、頭の下がるものがある。

この作品は、モーゼは神の声にしたがい、エジプトに囚われているイスラエル人たちを連れ出し、約束の地へ向かわせるというのが話の大筋だが、エジプトを出た一行はシナイ山の麓に駐留し、モーゼはひとりで神の啓示を受けに山に登って行く。

しかし40日経っても戻ってくる気配がないので、不満を抱いた民衆が反乱を起こす。

この場面は、とりわけ作曲に力が込められていて凄い。

第2幕第3場面の「金の仔牛のロンド」は有名だが、第2場の3曲の合唱のほうが、もっと音楽的に上だ。

なかでも2番目の合唱「神々が彼を殺したのだ!」は、音を扱う作曲技術の信じられないほどの巧みさ、凄まじいばかりの表出力、そして研ぎ澄まされた音感覚と比類ない音楽性の高さ、白熱的に高揚した精神状態をケーゲルは余すところなく伝えている。

この後の3番目の合唱「歓声を上げよ、イスラエル!」も力が籠り、しかも少しも俗に堕することがない。

清く、強く、熱く、そして柔軟な変化を思うままに駆使して、灼熱的な盛り上がりを形成して行くさまには、もうただただ恐れ入ってしまうほかない。

ケーゲルは、決して表面の劇的効果を作ろうとせず、対位法の妙味である線と線とが織りなす緊張とその微妙な変化を表現の中心に据え、きわめて質の高い品位ある演奏を行っている。

歌手陣も、集中力の高い歌唱で、何より徹底的にトレーニングされたことがありありとわかる合唱団の迫力たるや、聴いていてゾクゾクする。

同曲の名盤の誉れ高いブーレーズの演奏と聴き比べてみたが、フランス系の音楽家の感覚の洗練という美点を武器に迫ってみても、この大音楽は如何ともしがたいのだ。

その精神の強さ、深さにおいて、どうしても演奏に物足りなさを感じさせてしまう。

この長所あるいは短所は、作曲家としてのブーレーズについても同様であり、見る角度によって魅力ともなり弱点ともなっているのだ。

新ウィーン楽派の音楽は、長らくブーレーズによる録音が高く評価されてきたが、こうしてケーゲルの録音を聴き比べてみると、ひょっとするとブーレーズの演奏は、少なくともシェーンベルクが求めていたものとは違う音で演奏されてきたのではないかと思い始めてくる。

むしろ、ドイツ圏ではケーゲルやロスバウトのような演奏が本流であって、ブーレーズは傍流なのではないかという疑問も持ち始めているところだ。

ケーゲルは冷静時代の東独という目立たない所で活動していたので、生前ついぞ脚光を浴びることはなかったが、これから大いに再評価されて欲しいものだ。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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