2015年06月10日

グールドの新ウィーン楽派&近代フランス:ピアノ曲集


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新ウィーン楽派とフランス印象派というグールドらしからぬ組み合わせに聴かずにはいられないアルバムである。

いずれも曲の骨格がはっきりと分かる素晴らしい演奏だ。

特に素晴らしいのが、クルシェネクのピアノ・ソナタ第3番とラヴェルの《ラ・ヴァルス》だと思う。

まず、クルシェネクのピアノ・ソナタ第3番だが、作曲者がこの演奏を評して、『プロコフィエフ作品のような「ヴィルトゥオーゾ作品」と解釈している』と非難したことで有名だ。

クルシェネクは自身の正統的な解釈を後世に残すべく、ピアニストのジェフリー・ダグラス・マッジに演奏し残させているという徹底的な否定ぶりだったが、結局マッジの演奏は埋もれ、グールドのこの演奏が光を浴びている結果となっているのが、なかなか皮肉である。

ベルクのピアノ・ソナタは、ポリー二の名演があるにも拘らず、この乾いた音が織り成すヨーロッパの危機感のようなものは、やはり尋常ではない。

バッハの世界もグールドなら、これもまたグールドの真骨頂ではないだろうか。

本来、聴きにくいはずの近代ピアノ曲ではあるが、そうした聴かず嫌いの人のためにも、こういう演奏が大切であり、凡庸な現代の演奏を聴くよりも遥かに充実感があるので、現代人にとってはもしかしたら必須の演奏かもしれない。

次に《ラ・ヴァルス》であるが、本当に筆舌につくしがたい凄い名演で、筆者としては全ピアニストの演奏の中でもトップに掲げたい。

おそらく過去に聴いてきた音楽の蓄積がある人ほど、このグールド編曲版を聴くなり、言葉を失うほどの衝撃を受けるだろう。

今後、この演奏を思い浮かべることなく「1台ピアノ版の《ラ・ヴァルス》」の演奏を聴くことは2度とできなくなる危険もある。

本来、演奏に「決定版」などありえるはずはなく、どれほど楽譜に忠実で、なおかつ音楽に奉仕するかたちでの解釈であろうと、奏者が変われば楽器から出てくる音や響きは十人十色で、だからこそ、どんな曲でも違う奏者で聴いてみる価値がある。

とはいえ、《ラ・ヴァルス》に限っては特殊な事情もあり、ストラヴィンスキーが《ペトルーシュカ》のアレンジにあたってアルトゥール・ルービンシュタインからのアドバイスを得たのに対し、ラヴェルは独力で編曲作業を進めた。

オーケストレーションの天才でも、あいにくピアニストとしてはイマイチだったので、奏者がその才能(=イマジネーション)次第でどれだけオーケストラ的な音を楽器から引き出すことができるかという点について、逆にラヴェルは頭が固かったようだ。

すべてを書法のレベルで処理しようとし、だからこそ「楽譜が真っ黒に見えるほど」の音符を全頁にちりばめ、しかも譜面上で3種類もの選択肢を残したのだ。

《夜のガルパール》の「スカルボ」を上まわる音の多さに惹かれ、近年は特に腕自慢の若いピアニストがよくこの曲を演奏する。

確かに、リズムやテンポを(たいていは)崩しながらでも、目まぐるしい指さばきと大音量だけでもそれなりに派手な演奏効果はある。

だが、原曲での「まばゆいシャンデリア、人々のざわめき、勢いを増していくワルツ、それらのすべてが渦に飲みこまれていく」をきちんした説得力で聴かせることは、編曲がまずいせいもあり不可能に近い。

グールドの《ラ・ヴァルス》は、冒頭からしてラヴェルの「音つくり」とはまったく違うが、聴いてしまうとまさに「これしかない」と思わされる。

かといって、ホロヴィッツの録音を聴いたピアニストたちがラフマニノフ協奏曲などでの「ホロヴィッツ版」を弾きたくて楽譜を探し求めたような騒ぎが、いまさらこのグールド版で起こるとも考えにくい。

編曲まで含めて、グールドだけの確固たるオリジナリティがこの演奏に息づいているからだ。

グールドを知る人はグールドのタッチが近現代音楽の曲に向かないと思う人はいないと思うが、むしろピッタリなくらいである。

にもかかわらずグールドは近現代音楽の録音をほとんど残していない。

それがグールドの意思であり、アイデンテティなのだとも思う。

にもかかわらず弾き残さずにはいられなかったこれらの曲の素晴らしさに、グールドの人間らしさを感じてしまうのだ。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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