2015年06月15日
ラサールSQの新ウィーン楽派(&ツェムリンスキー)弦楽四重奏曲全集
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初出の時は、新ウィーン楽派の3人の作曲家の弦楽四重奏作品を集成、世界各国のレコード賞を総なめにしたアルバムであったが、本セットは、これらの作曲家の作風の先輩格にあたるツェムリンスキーの作品も併録し、集大成した画期的な全集。
シェーンベルク、ベルク、ウェーベルン、ツェムリンスキーの楽譜を謙虚に見つめ、その本質を明快なアプローチでクリアーに描き切った、ラサール弦楽四重奏団一世一代の記念碑的名演。
弦楽四重奏といえばドイツ、オーストリアが中心といった通念を壊し、弦楽四重奏演奏に新たな地平を開いたのがアメリカの四重奏団であった。
中でもラサール四重奏団は、メンバーのうち3人がヨーロッパに出自をもちながらジュリアードで学び、その緻密なアンサンブルと幅広い音楽性によって、ヨーロッパの若い弦楽四重奏団にも大きな影響を与えた。
そうしたヨーロッパから持ち込まれた音楽伝統が、アメリカの現代的感覚で磨きをかけられることによって生まれたユニークな音楽性こそ、このクヮルテットの持つ際立った特色である。
豊かで正確な見識と、目を見張るばかりの高度なテクニックに支えられた、音楽に対するあの積極的で誠実な姿勢が生み出されてきたものと想像される。
彼らはベートーヴェンやロマン派の音楽にも大きな成果を挙げたが、最も得意としたのは20世紀音楽であり、新ウィーン楽派の弦楽四重奏曲全曲を収めたこの集成盤は、彼らの精密な合奏能力や音楽性の高さが集約されたものとして、20世紀弦楽四重奏演奏の金字塔の1つとなっている。
ラサール四重奏団は、これらの作品を謙虚に受け止め、それを余裕のあるテクニックで的確に表現し尽している。
そして、客観的にそれぞれの作品の性格を描くことにより、4人の作曲家の作風の違いを明らかにするとともに、シェーンベルクの場合など作風の変遷も明確に演奏に反映することに成功している。
また、どの曲をとってもきわめて音楽的であるところが素晴らしい。
この演奏を通して、新ウィーン楽派の作品が決して頭で聴くものではなく、耳と身体全体に喜びを与えてくれることを教えられた人も少なくないだろう。
こういう共感ができるのも、このラサール四重奏団の演奏に「血の流れ」が感じられるからかもしれない。
もちろん演奏の密度はきわめて高く、適度の緊張感が聴き手の注意をそらさない。
なんでも、メンバーの各人が楽譜を筆写して演奏に臨んだらしく、なるほど、一聴すると無機的にも見える音の並びを見事に生き生きと、つややかに表現できている。
これらの作品解釈のひとつの規範となる演奏だ。
また、ここでは、マーラーとベルクの狭間に位置し、新ウィーン楽派に大きな影響を与えた作曲家、ツェムリンスキーの弦楽四重奏曲全集について指摘しておかねばならない。
新ウィーン楽派の音楽に傾倒していたラサール四重奏団にとって、その栄光を称えるためには、その楽派の先駆的存在であったツェムリンスキーは、必然的にとりあげなければならない作曲家だったに違いない。
このラサールによってひき起こされたツェムリンスキー再発見運動は、新ウィーン楽派の音楽をより深く理解するうえで極めて意義深い材料を提供してくれたことになる。
演奏は、ツェムリンスキーのもつ表現主義的緊迫感を明晰に表現し、そのルネッサンスに先駆をつけた名録音。
このツェムリンスキーを演じても、ラサール本来の曖昧さのない美意識はますます冴え渡っており、彼らが弦楽四重奏の世界で実践した演奏美学は、1980年代の演奏史に大きな足跡を残すこととなった。
新ウィーン楽派の音楽に心から共鳴し、それに暖かい血を通わせた名演として、演奏史に永遠に輝く記念碑となろう。
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