2015年06月11日
グレン・グールド/バッハ・エディション
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独自の奏法やその風貌、そして芸術観だけでなく生涯そのものでもオリジナリティを貫いたグレン・グールドが、わずか30年足らずのキャリアの期間にバッハだけでもディスク44枚分の録音及び録画を遺していたというのは驚異的な事実である。
それはまたグールドが如何に対位法の音楽やそのテクニックに傾倒していたかの証明でもあるだろう。
そしてグールドはその迷路のような狭間に分け入って、それぞれの声部をより効果的に感知させる怜悧で不思議なピアノ奏法を編み出した。
グールド自身が意識していたか否かに拘らず、その強烈な個性がともすれば息詰まりになっていたバッハの音楽に新しい生命を吹き込んで、その後の演奏家に幅広い解釈の扉を開いた功績は大きい。
一方で彼は演奏の一回性に疑問を持っていた。
言うならばそれぞれのコンサートごとに変化する、あるいは聴衆を満足させる演奏ではなく、逆に聴衆を介さない自己の最大限の集中力の中での再現を試みようとした。
少なくとも彼は1964年以降公衆の面前から姿を消した。
音楽家の中には録音芸術を虚構として嫌う人達も少なくないが、彼は果敢にも録音を通してのみその本領を発揮しようとした新時代のピアニストであった。
そうした意味ではこの膨大な記録に彼の直截的なメッセージが託されていると言ってもいいだろう。
とにかく現段階で入手可能なグールドのCBC、コロムビアへのバッハ録音が網羅されている。
中心になるのは曲目構成、ジャケットと共に初出時のオリジナルLPを再現した27枚のCDで、このうちにはカップリングの関係でベートーヴェンの2曲の協奏曲も含まれている。
またグールドがセンセーショナルなデビューを飾ったゴルトベルク変奏曲に関しては1954年のCBCラジオ放送盤、1955年のモノラル盤及び同録音の擬似ステレオ盤、1959年のザルツブルク・ライヴ盤と1981年のステレオ・デジタル盤、1982年のティム・ペイジとの対話での抜粋、さらには1955年のスタジオ・アウトテイク録音、そしてとどめにDVD3枚目の1964年テレビ放送用録画及び6枚目の1981年のモンサンジョン監修動画のなんと9種類が収められている。
全44枚のディスクのうち6枚はDVDで、初出のものは2枚目の「Well-Tempered Lisner」と題されたジャーナリスト、カーティス・デイヴィスとの対話が演奏の間を縫ってトラック4、7、9、11に収められている。
またこのDVDではグールドがモダン・チェンバロを弾く映像も興味深い。
それ以外の5枚は既出だが廉価盤で、しかもまとまって手に入るのが嬉しい。
また既に良く知られているブリューノ・モンサンジョン監修による彼自身との対話では、グールドの哲学がどのように実際の演奏に昇華されていくかが見どころだ。
ボックスの装丁は買うほうが気恥ずかしくなるような立派な布張りで、ディスクの枚数の割には随分大きく、ずっしり重いコレクターズ仕様。
ハード・カバー装丁で上質紙の192ページほどある横長のライナー・ノーツの巻頭に、ミヒャエル・シュテーゲマンの「グールド、21世紀のバッハ」と題されたエッセイを英、独、仏語で、全ディスクのデータ、オリジナル解説、グールドのバイオグラフィーは英語で掲載し、随所にカラー及びセピア色の写真が満載されていて殆んど単行本の外観と内容を持っている。
それぞれのジャケットは紙製だが折り返しのある丁寧な作りで、ディスクの配列が背中を向けた横向き収納なので、ボックスを縦に置くと目当ての曲目が容易に取り出せる。
コストパフォーマンス的にもグールド・ファンには見逃せない企画だ。
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