2015年06月15日
バックハウス&ベームのブラームス:ピアノ協奏曲第1番
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ベートーヴェンを演奏して最高の巨匠であったウィルヘルム・バックハウスは、同時に、ブラームスのピアノ作品においても、比類のないピアニズムを示し、技巧は豪快、深い精神美とストイックな抒情性で、独特の威厳を感じさせる名演をもって有名だった。
ことにブラームスの青春の情熱と円熟の沈潜を代表する力作という2つのピアノ協奏曲にかけては、バックハウスの右に出るピアニストはなかった、と言っても過言ではない。
そのうちの《第2》はシューリヒト指揮のウィーン・フィル(1952年録音、モノーラル)と、ベーム指揮のウィーン・フィル(1967年録音、ステレオ)という新旧2種のスタジオ録音の名演が残されている(他に1930年代のSP録音も存在する)が、《第1》のほうは、1953年にウィーンで録音されたこのCD復刻盤が唯一のものとなった。
同曲は、作品が書かれた当時はもちろんのこと、現代のシンフォニックな作品のレパートリーとしても、管弦楽のパートの激烈で緻密過剰なことで知られる難曲である。
したがってこの曲は、独奏者がよほど力量のあるピアニストでないと、ただでも圧倒的で分厚い管弦楽の響きの中に埋没してしまうだろう。
ピアノがむしろ管弦楽を伴奏しているようなところさえある。
それでいて、これはピアニストにとって物凄く厄介な技巧を要求される難曲でありながら、ほんのいくつかの印象的なソロ以外は、それほどピアニスティックな演奏効果があがらない作品である。
この協奏曲を弾いて聴衆に強烈な印象を与えるのは、並大抵のことではない。
それに加えて、オーケストラの出来も問題となってくるのであって、巨匠的なピアニストに対抗できる大指揮者と名オーケストラが絶対必要なのである。
その点で、バックハウスがカール・ベームの指揮するウィーン・フィルという最高の協演者とともに録音したこの演奏こそ、録音がモノーラル時代のものであることを除けば、あらゆる意味で、この曲の理想的な演奏が聴ける1つの典型と言って良いだろう。
1953年6月という時点でウィルヘルム・バックハウスは69歳、歳をとっても技巧の衰えや造型力の弱まりを見せなかった彼だけに、69歳はまだまだ全盛期のさなかであった。
巨人的スケールの大きさと切れの冴えた技巧、ストイックだが、こまやかな情感のぬくもりを表現の陰翳に隠したバックハウスのピアノは、この曲のピアノ・パートが示す息の長い情感の底流を見事に捉えて、圧倒的な演奏を構築して行く。
筆者がこの演奏でとりわけ好んでいるところを、いくつか書き出してみよう。
まず第1楽章では、長い管弦楽提示部がppで結ばれ、待ちに待ったピアノが、柔らかいタッチに内面の芯の強さを隠して、pでエスプレッシーヴォと指定されたフレーズを奏し始めるところ。
表情をぐっと抑えて、しかも荘重な響きを持続し、次第に表現と響きにふくらみを持たせる、あの出だしである。
だがバックハウスのすばらしさがもっと直接に理解できるのは、ポコ・ピウ・モデラートの第2主題を弾き出す独奏部であり、さらにショッキングなダブル・オクターヴで颯爽と出る展開部の入りの劇的パッセージであろう。
第2主題では再現部のほうがより美しく、提示部では左手のバスの動きに意味を持たせたのに、今度は和声全体の響きを磨くのに耳を吸い寄せられる。
そして、これこそ圧巻と言いたいのは、ポコ・ピウ・アニマートのコーダに入ってからのピアノの威容である。
まだ50代だったベームが全力でウィーン・フィルから絞り出すffの和弦の林立する中を、揺るぎなき大地に両足をしっかりと踏みしめたような安定感を示しながら、あの両手のダブル・オクターヴによるffの音階的パッセージを連続させつつ猛烈なクライマックスにひた走るバックハウスの弾きっぷり!
全軍の先頭に立って堂々進軍する王者の風格といいたい豪壮無類のピアニズムである。
この楽章の再現部からコーダの演奏は、筆者がこれまで聴いてきた数多いこの曲の演奏のどれよりもすばらしい。
バックハウスも偉大なのだが、ベームとウィーン・フィルも凄い。
コーダは全く息もつかさず、結びのffの4つの和音の圧倒的な気力充実ぶりは、ピアノの両手の主和音ともに最後の音が十分に引き伸ばされて終わった瞬間、聴いていて思わず立ち上がって叫びたくなった程の強烈さだった。
第2楽章のバックハウスらしい武骨さの感じられる抒情のたゆたい、ウィーン・フィルの憧れにむせぶような弦、中間部のクラリネットのひとくさり! きっと、これはウラッハが吹いているに相違ない。
そして豪放な終楽章。
録音が、もう少し新しければと思うが、これでも十分だ。
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