2015年07月31日

ヤノフスキ&ドレスデン国立歌劇場のワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」


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『世界初のデジタル《リング》』で名高く、30年経った今日の基準でも全く古びれていないばかりか、優秀なエンジニアの技量と感性が今より冴え渡る高音質。

東ドイツが国家と社会主義の威信を賭け、矜持と執念、嫉妬と羨望も滲ませて「西側、西ドイツ、バイロイトへの殴り込み」的に、また、「ドレスデン大空襲の無差別大量殺戮への恨み、鎮魂と祈り」も込めて制作しただけあって、ズラリと並べた国宝級の名歌手たちの歌声は誇り高く、自ら民衆蜂起を主導しながらも革命に挫折したワーグナーの怨念の地、古巣シュターツカペレ・ドレスデンの響きは、どこまでも精密で美しく、今や失われた「様式美」を感じる。

折しもデタントが崩れ東西対立が激化した1980年代初期の「時代の熱気」も仄かに漂っており、結局、東独がこの後10年と保たずに“滅亡”し、これに参加した人々の人生も一変したことを想い起こせば、それが何か「壮大で華々しい最後の大攻勢」めいた雰囲気に感じられて、この《リング》に一層意味深で悲劇的な奥行きを与えているようにも思われてくる。

「結局は転向して王侯貴族と結託したナチズムの始祖」である前に「ドイツ左翼革命の先駆者」でもある彼らなりのワーグナー観で再定義を試み、精密丁寧爽やかな風通しの良い音作りで脱構築することで東独の国是「反ナチ」色を野心的に追求した結果、「非慣例的・非ワーグナー的」「軽薄」「薄味淡白」と散々叩かれ、実際そうではあるのだが、であっても、これはこれで、信念を貫いていて面白いところもあるし、いまだに頑張ってるのが嬉しくて、ついつい応援したくなってしまうヤノフスキの指揮。

まだ30代だった若いサルミネンの〈ハーゲン〉、声は物足りないが是非映像版で観てみたかった美貌の演技派アルトマイヤーの〈ブリュンヒルデ〉…。

誉めるところは色々あるけれど、筆者にとって、本盤を愛聴し続ける意義は、何といってもペーター・シュライアーの強烈な〈ミーメ〉に尽きる。

日本でも多くの名演名唱を楽しませてくれた稀代の名モーツァルト・テノールで美声の持ち主の彼が、シュプレヒゲザングの権化と化し、技巧を総動員して繰り広げる絶唱は、「舌を巻く」どころか、まさに、文字通り「テノールの鬼」そのもの。

バッハからクルト・ヴァイルやベリオまで、何を歌わせても俄然巧く解釈は鋭く深い。

若い頃の録音から既にずば抜けた存在感で、この人の声楽家としての幅、能力の高さには心底呆れるばかり。

それでいて、例えばフィッシャー=ディースカウの全く色気のない声が醸していたような、ある種の「名状し難い退屈さ」「説教臭さ」とは一切無縁、「オペラ快楽主義者」たちを魅了し続けたところが、これまた、シュライアーの素晴らしさ、偉さ。

悪漢謀略家の力強さも内に秘めたキューン、「狂気」や「凶気」をはっきり感じさせるほどに凄まじいシュトルツェやヴォールファールト、どこまでも憎めない滑稽で愛嬌あるツェドニクといった本職の性格テノールの達人とは一味もふた味も異なる、本盤のシュライアーの知的に狡猾で鬼気迫り哀れな分裂症的〈ミーメ〉、その驚異的な芸達者ぶり、「尋常ならざる声の演技力」にも、是非、注目して頂きたい。

ここでは〈ローゲ〉も歌い分けており、これも当然、巧過ぎに巧く、しばしば《ライン》の共演陣を霞ませてしまう…。

〈ローゲ〉や〈ミーメ〉は、《リング》に深遠さを与える重要なキー・ロールだが、傑出したグレアム・クラーク辺りを除いて、最近の公演や録音ではすっかり平均値が落ちてしまった感が否めず、現役の脇の歌手たちにこの「凄味ある巧さや旨み、陰険邪悪な怪優ぶり」を望むべくもないから、主役級の人材不足も相俟って、余計に「ドラマ」がシラけ興醒めしてしまうのだ。

リヒャルト・ワーグナーその人の後輩にあたる聖十字架合唱団の一員として少年時代から歌っていた地元ドレスデンでの国家的大プロジェクト参加で、国定「宮廷歌手」の誇りも胸に余計意気に感じていたであろう、“やり過ぎ”なほどノリノリのペーター・シュライアー、そして、脂が乗り切っていたリリックな美声のルネ・コロ、さらに、テオ・アダム(彼もクロイツシューレが母校の生粋のドレスナー)も軽量なりにもまだまだ頑張っている。

その3人が各自持ち味を発揮している《ジークフリート》第1幕は、文句なしに輝かしい名録音だと思う。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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