2015年07月04日

ショルティのワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」


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ショルティは、ワーグナーの主要なオペラを全て録音し、あの1958年から65年にかけての《ニーベルングの指環》の全曲録音ひとつによっても、他に比肩するもののない業績の豊かさを思わせている。

そこにある完璧ともいえる音楽分析と深い理念に裏付けられたワーグナー観は、ショルティが常に最も信頼し得るワーグナー指揮者のひとりであったことを疑わせる余地はない。

しかし、ショルティのワーグナーの中でも、多くのワグネリアンや評論家に評価の芳しくないのが《トリスタンとイゾルデ》(1960年スタジオ録音)である。

同時期の《ニーベルングの指環》がそのスペクタクルな録音も含めていまだに「最高」評価が多いの比べ、また、《トリスタンとイゾルデ》のディスクの中でもフルトヴェングラー、ベーム、クライバーが常に名盤の上位に置かれるのに比べ、ショルティの《トリスタンとイゾルデ》は高く評価されることがなかった。

それ故、ショルティの残したワーグナー・オペラの中では最も「マイナー」な扱いをされているディスクである。

確かに同オペラの官能美の極致をゆく音楽が、ショルティの直情径行的な芸風とマッチするとは思えず、筆者としてもこの全曲録音を長い間無視してきたことを否定するつもりはない。

しかし、その後ショルティが手兵シカゴ交響楽団と《トリスタンとイゾルデ》の「前奏曲と愛の死」を振ったディスクを聴いてみたら、これが非常な名演なのである。

冒頭の哀切なピアニッシモからして心惹かれるが、木管の透明さと弦の粘着力を両方併せ持ち、この曲の世界を的確に描き出していた。

筆者はこれを機会にショルティの《トリスタンとイゾルデ》の全曲盤を入手するに至ったのである。

今回初めて聴いてみて、従来のそういう評価がいかに不当であるかを痛感した次第であり、これは大変良い出来のディスクである。

まず、ショルティの指揮が、《ニーベルングの指環》では正直言って耳をつんざくような響きが随所にあって、デリカシーのなさに辟易することもあり、そういう調子で《トリスタンとイゾルデ》を演奏されたら辟易するのかと思っていたが、さすがにこの作品でショルティはそんな演奏はしていない。

落ち着いたリリシズムが全編を支配し、無駄な煽りもなく、この美しくも哀しいドラマをしっかりと表現している。

そしてウィーン・フィルも若きショルティによって迫力あるサウンドを聴かせており、この作品のオーケストラ・パートとしては異例と言って差し支えない起伏の激しい音楽が今聴くと実に新鮮で、カルショウによる半世紀前の録音とは思えないリアルな録音も冴え渡っている。

それにウィーン・フィルの濃厚な音色も個性的であり魅力十分で、音色の美しさと豊かな表現力は特筆ものであり、合奏力の精緻さや音楽の推進力にも不足はない。

強いて難点を挙げれば、1960年当時のショルティの、鋭角的な音作りと猪突猛進な音楽運びは、残念ながら《トリスタンとイゾルデ》の壮大な官能の世界を描き切るほどに成熟していなかった。

和声的というより、あまりにも構築的な演奏と言えよう。

歌手陣は、意外にも唯一のセッション録音となった希代のドラマティック・ソプラノ、ニルソンをはじめとして高水準の歌唱を展開しており、ニルソンはベーム盤では結構絶叫部分が多かったのだが、ここではセッションということもあり、繊細な表現が際立つとても良い出来栄え。

ウールはさすがにセッションにおいても声の不足が感じられてしまうのだが、もともと難役であるし、十分水準には達している。

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classicalmusic at 20:56コメント(2)トラックバック(0)ワーグナー | ショルティ 

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コメント一覧

1. Posted by Kasshini   2017年02月16日 19:05
さて、官能的というよりも構築的です。R.シュトラウスの交響詩の形式をオペラにする先駆けとも取れるような形が見て取れます。意外とポリフォニックなところも。
エネルギーの爆発の仕方はハイライトをはじめて聴いたC.クライバーのセッションが1番好きです。コロ、ディースカウ、モルは歴代でも最高でしたし。
この音盤は、叫ばない驚くほど優しくあるニルソンの美声に初めて惚れ惚れしました。他の歌手はやや小粒ながら悪くないですし、WPhの夢心地のような木管とホルンは、他ではやはり聴けません。パルジファルのヴァーグナーが求めたテンポを考えるとクライバー、ベームが理想的で、クライバーは官能的でより理想的。この音盤で弱いのは少し官能的でないことです。官能的ならファーストチョイスでもおかしくないです。この美音が好きな自分にとってC.クライバーとならぶ好きな演奏です。玄人向けですが。
2. Posted by 和田   2017年02月17日 19:46
結局、これが現在に至るまでのウィーン・フィルの「トリスタン」の唯一のセッションですから、貴重極まりないですよね。「指環」同様、指揮者がクナだったら…、とはもう言いますまい。
私としては、未だにフルトヴェングラー盤の存在感が非常に大きく、何と言ってもフラグスタートのイゾルデが現在でも凌駕されることのない演唱で、威厳だけでなく、か弱さ、繊細さもあって、やっぱりいいですよね。
ベーム盤は歌手もいちばんいい時期で、ベームもいちばんいい時期だったので、すごくかっちりできていますよね。
また、クライバーはまったく違う新鮮さがありました。プライスのイゾルデがいいですね。プライスの抒情的なよさとクライバーらしいドラマとがうまく生きていますしね。
ショルティ盤同様、カラヤン盤もバーンスタイン盤も優れていると思うのですが、今ではあまり話題にのぼらなくなりましたね。私なんかはクライバーと違った意味で、カラヤンはリリックなデルネシュをうまく使っていると思うのですが。
その他ではバレンボイムもしっかりしていて、歌手もちゃんとしているし、ポネルの舞台の印象が鮮やかに残っています。
でも「トリスタン」については、フルトヴェングラー、ベーム、クライバーはやはりちょっと外せないですね。総合力ということなんでしょうけど、それがあるかないかというところで、上の3つは、歌手もそれぞれ特徴的で、きちっとそろっていますし、これらを超えるような録音はしばらく出てこないでしょうね。

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Profile

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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