2015年07月06日

フルトヴェングラー (河出文庫) 吉田秀和著


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我が国においては、故吉田秀和氏のように好き嫌いを別にして公平に指揮者を評価できる音楽評論家は数少なかった。

本著には、1954年のパリ・オペラ座でのフルトヴェングラー指揮の演奏を聴いた感動を語る「荘厳な熱狂」、ベートーヴェン「エロイカ」のフルトヴェングラー指揮の演奏を徹底分析したその名も「フルトヴェングラーの『エロイカ』」、ナチス・ドイツに残ったフルトヴェングラーの芸術観(たとえドイツがナチスに牛耳られていようと故郷、祖国に踏みとどまり、民衆を見捨てなかった)を考察する「フルトヴェングラーのケース」、トスカニーニとの1937年、ザルツブルク音楽祭での対面と短い会話が紹介されていて興味深い。

吉田氏はフルトヴェングラー生前中から既に彼の指揮が時代遅れのスタイルであることを指摘していた批評家が少なからずいたことを書いているが、筆者自身そう感じたことがあった。

それは26歳のフィッシャー=ディースカウが抜擢された1951年ザルツブルクでのマーラーの『さすらう若人の歌』のライヴ録音を初めて聴いた時で、ウィーン・フィルから官能と陶酔、そして破滅の予感さえも描き出した演奏が世紀末のウィーンの空気感をイメージさせて素晴らしかったが、それが一種の懐古趣味に思えたからだ。

だが吉田氏が力説しているフルトヴェングラーの優れたところは、彼が生きた時代の音楽的趣味や傾向を演奏に反映させていることを認めながら、なおかつより普遍的な楽理的要素を深く読み取って精神的に昇華させ、聴き手に感知させる術を知っていた稀な指揮者だったと回想している。

例を挙げれば作曲家が曲想を変化させる時、それが前後に何の脈絡もなく起こるのではなく、変化に至る必然性を曲の中で刻々と予告しているのだと主張する。

実際ベートーヴェンを始めとするドイツ系の作曲家の作品ではそうした変化の兆しが周到に用意されている場合が多い。

こうした手法によってたとえテンポをかなり自由に動かしていても、聴衆にはその有機的な繋がりが効果的に聴き取れることになる。

これについてはベートーヴェンの交響曲第3番及びブラームス同第4番におけるアナリーゼに詳しい。

ここ数十年のクラシック演奏の傾向として、先ず楽譜に忠実であることが求められる。

しかし楽譜は音楽を伝えるための媒体に過ぎないので、こう書いてあるからそのように演奏するというのは如何にも短絡的な発想であり、聴き手を説得することはできないだろう。

むしろ演奏家は音符に表すことができなかった作曲家のメッセージがどこに、どのようにして存在するかを解明し、それを実際に音にして伝達しなければならない。

その意味でフルトヴェングラーは多くの人が誤解しているように、恣意的な解釈、あるいは即興で人々を熱狂させたカリスマ的指揮者とは一線を画している。

逆説的だが彼の手法は現代の指揮者が目指すべき方向にも相通じる課題の示唆的な解決策を含んではいないだろうか。

最後の章は政治学者、丸山眞男氏との対談で、クルト・リース著『フルトヴェングラー、音楽と政治』をベースにフルトヴェングラーとトスカニーニを対峙させて、両者を育んだ異なったふたつの文化や思想基盤を根拠に彼らの言動の究明を試みている。

フルトヴェングラーが政治に関して意外に無知だったこと、政治が芸術に及ぼす影響力を見くびっていたことなども考察されているが、彼は芸術が政治によって関与されるべきものでないという信念を貫いていたことは確かだろう。

ここではトスカニーニによるニューヨーク招聘を断わって、ナチス政権真っ只中のドイツに留まった理由を、彼の芸術の真の理解者は先ずドイツ人達である筈だと信じていたことなどが論じられていて興味深い。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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