2015年07月09日
ジュリーニ/In Vienna
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2012年にユニヴァーサル・イタリーからリリースされた『カルロ・マリア・ジュリー二の芸術』16枚組とはグラモフォンの同音源であるために、ブラームスとブルックナーの交響曲に関してはだぶっているが、彼の音楽的な構想を実現し得た充実した時期の録音だけにファンには欠かせないコレクションになるだろう。
ジュリーニがヨゼフ・クリップスの後を継いでウィーン交響楽団の首席指揮者の地位に留まったのはわずか3年間だったが、その後も同交響楽団とウィーン・フィルには客演を続けて常に良好な関係を保っていた。
彼らの演奏の魅力のひとつにオーケストラの音色の瑞々しさが挙げられる。
特にウィーンはヨーロッパのどの都市とも異なった頑固なまでの流儀を持っていて、それが音楽の表現や音色に濃厚に反映されているからだ。
ジュリーニは緻密な音楽設計の上にウィーン流のしなやかな弦の響きとマイルドな管楽器のアンサンブルを活かしながら、明快でシンプルなイタリア趣味の新風を随所に感じさせている。
ベートーヴェンの3曲のピアノ協奏曲では、クリスタリックな響きを駆使したスタイリッシュなミケランジェリのソロを抱擁するようなおおらかさがあり、中でも第5番『皇帝』第2楽章のリリカルな美しさは特筆される。
またベルマンと組んだリストでは両者の豪快なダイナミズムの応酬と、ロマンティックな幻想性が秀逸だ。
声楽陣に豪華メンバーを抜擢した『ドイツレクイエム』『リゴレット』及び『後から生まれ来る人々に』は、ジュリーニの得意とする歌物だけに卓越した棒さばきが聴きどころだ。
このセットではヴェルディの『リゴレット』を除く他の総てのレパートリーがゲルマン系の作曲家の作品で占められていることを考えれば、ジュリー二のドイツ物への造詣の深さとそれに賭けた情熱は想像に難くない。
『ドイツレクイエム』ではブラームスの作品にまとわりつく諦観は払拭され、重苦しさを解放すべく明るい光りが差し込んでくるような希望を感じさせる数少ない演奏で、そこにオペラティックな手法が発揮されているのも事実だろう。
フォン・アイネムのカンタータの白眉は第5曲で、ここには劇作家ブレヒトが未来の人々に贈る痛烈な反戦歌が挿入されている。
自身共産主義者でユダヤ系の妻を持ったブレヒト一家の逃避行は戦中戦後を含めて15年に及んだ。
ジュリー二の解釈は精緻でありながら平明で、鮮烈な色彩感の中に作品への深い理解を示した厳しさと、一方で慈愛に満ちた温もりも感じられる。
ジュリーニは後年やっつけ仕事的な稽古事情を嫌ってオペラ界から手を引いてしまう。
それはスカラ座出身のイタリア人指揮者としては異例のことだが、演奏に対する自身のポリシーを曲げなかった彼の信念を証明している。
ここでの『リゴレット』も声の饗宴という意味では既に大歌手時代の終焉を告げる演奏記録であり、歌手達の力量を認めながらもスコアに忠実で、それぞれが良くコントロールされた等身大の役柄を演じさせている。
ジュリーニが歌い手の勝手気ままを許容しなかった新しいタイプのマエストロだったことを改めて実感する演奏だ。
尚CD1-2のベートーヴェンのピアノ協奏曲集、CD6ブラームスの交響曲第4番並びに『悲劇的序曲』、CD7同『ドイツレクイエム』及びCD11ブルックナーの交響曲第9番はライヴ・レコーディングだが音質は極めて良好。
『リゴレット』についてはシノプシスのみの紹介でリブレットは省略されているが、他の2曲はライナー・ノーツに全歌詞の英語対訳が掲載されている。
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