2015年08月13日
ショルティのワーグナー・オペラ全集
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ショルティのワーグナー・オペラ総集編が、廉価BOXで再発される運びになったことをまずは大いに歓迎したい。
《さまよえるオランダ人》は、シカゴ交響楽団の音の豊麗な威力と、一糸乱れぬアンサンブルが実に壮観で、ショルティの意図が100%体現されて余すところがない。
こうした完全な管理システムのもとに統御されたシカゴの強靭な音は、あるいは「オランダ人」のまだいくぶん平板な音楽にはかえって適しているのかもしれない。
歌手たちはとくにとび抜けた魅力はないがまずまずの出来である。
《タンホイザー》はパリ版による全曲録音で、序曲の途中から豊麗なバッカナールに流れ込む形をとっている。
このことにより、初めてヴェーヌスは類型的な異教的官能の女神としてではなく、純愛の象徴エリーザベトのアンチテーゼとしての劇的実体が得られた。
タンホイザーを歌うコロが初々しいのをはじめ、主役2人の女声がともに魅力的であり、ショルティの指揮もこれ以前の「指環」全曲よりもふくらみを持っている。
《ローエングリン》は、あらゆる点に周到な目配りと配慮の行き届いた表現で、音楽とドラマのデリケートな色調や陰影や情感の明暗を表出し、以前のショルティのようなゴリ押しはなく、音楽は自然に、豊かに流れ出ていく。
主役2人にドミンゴとノーマンを選んでいるのも素晴らしく、その声の豊麗さと肉感的なほどの美しさはとび抜けている。
もちろん、ワーグナー独特の朗唱法をきちんと守りながら、見事な歌唱を聴かせている。
《トリスタンとイゾルデ》は、1960年当時のショルティの、鋭角的な音作りと猪突猛進的な音楽運びが、残念ながら「トリスタン」の壮大な官能の世界を描ききるほどには成熟していなかった。
しかし合奏力の精緻さや音楽の推進力に不足はなく、和声的というより、あまりに構築的な演奏といえよう。
歌手陣は、ニルソン、ウールをはじめとして高水準の歌唱を展開している。
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》は、このオペラの成否を決める重要な2つの要素である、明快さとふくよかさを併せ持った演奏だ。
ヴァルターを歌うコロが、若々しく伸びの良い声で力演、ベックメッサーのヴァイクルも、甘美な声と確かな技巧で聴かせ、またハンス・ザックスのベイリーが、淡々としているが必要なものは過不足なく備えた好演だ。
そしてウィーン・フィルの味わい深い演奏が、このオペラに豊かな肉付けをしていることを忘れてはならない。
《ニーベルングの指環》は、1958〜65年にかけて録音された壮大な全集。
ショルティの指揮は、一言でいうと明快強靭なダイナミズムやスリリングな緊張に貫かれており、実に活気に溢れたデュナーミクと、清潔で的確な表現によって、ワーグナーの音楽を生き生きと歌い上げている。
音楽の豊麗さという点でも傑出しており、ここにはショルティの力ずくのダイナミズムや直截さだけでなく、ふくよかなロマンティシズムやたくましい流麗さ、そして壮大な詩とドラマがある。
その精緻で雄弁な音の繰り広げられる壮大なドラマのおもしろさと感動はまったく底知れないものだ。
キャストの面では、全作を通じて同一の歌手で歌われていない配役があるなど、統一感のうえではやや弱い点もあるが、そうした面を越えて不朽の名演であることに変わりはない。
とりわけ、第2次大戦後の最もすぐれたワーグナー歌いの名手がズラリと並んださまは壮観というほかない。
《パルジファル》におけるショルティは、自信に満ちた態度でテンポを悠然と運び、豊かできびしい音の流れを作りだしており、ウィーン・フィルも、他に類がないほど豊麗で、しかも清純な美しい響きを聴かせている。
それに加えて練達の歌手たちが素晴らしく、威厳に満ちたホッター、明晰な歌を聴かせるフリック、そして敬虔さ、妖艶さともに最高の名唱ルートヴィヒなど、まさに最上のキャスティングといえるだろう。
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