2015年07月10日
世界の演奏家 吉田秀和コレクション (ちくま文庫)
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本著は、不世出の音楽評論家吉田秀和が、世界の名演奏家に光をあて、その芸術の特質とあふれる魅力を明晰に語った作品。
この評論集には23人の器楽奏者、7つの弦楽四重奏団及び17人の声楽家について彼らの演奏への評価とその特質や印象などがまとめてある。
特に、入門者が鑑賞する際に聴くべきポイントは何処にあるか、そしてCDその他のメディアを選択する時、先ず誰の演奏が妥当かなど実用的なガイド・ブックの側面と、一方ではクラシック音楽の将来への展望を示した吉田哲学が随所に滲み出た貴重なエッセイ集としての価値がある。
それは吉田氏の鋭い洞察力と圧倒的な経験や知識が、対象となる演奏家のスピリチュアルな領域にまで踏み込んだ全体像を見抜いているからで、私自身著者と意見を共有できる部分が非常に多く、クラシック鑑賞のための心強い指針となってくれる。
吉田氏の文章はいつもながら平易かつ穏当な口調で、楽譜を掲載して解説することは最小限に抑えている。
そして吉田氏の考察はあくまでも提案という形で提示され、決して読者に強制するものではないが、それには確たる根拠があり充分な説得力を持っている。
私達が批評家に求めるものは啓蒙であって、演奏家への毀誉褒貶ではない筈だ。
音楽家への好みや巧い下手だけをあげつらうことは安易な行為であるにも拘らず、それだけを書いて批評家を名乗る人も往々にして見かけるが大切なのはその理由で、楽曲を分析して分かり易く説明して演奏のあるべき姿をより多くの人に伝える努力が望まれる。
その点についても吉田氏は一点の曇りもなく冷静沈着に書いており、特に我が国においては、吉田氏のように好き嫌いを別にして公平に指揮者を評価できる音楽評論家は数少なかった。
ただ筆者にとって惜しむらくは、声楽家はドイツ系あるいはドイツ物をレパートリーにする歌手が多く、イタリア・オペラやフランス、スペイン物で活躍する人達がほとんど取り上げられていないことで、それは吉田氏の音楽鑑賞に対する嗜好である可能性が強いが、あえて彼が書くことをためらったジャンルなのかも知れない。
本文中では吉田氏は自分より巧く表現できる人や批評家をためらいもなく挙げているのも潔いが、それは彼が音楽を理知的な基盤の上に展開する感性の昇華として受け止めていたからではないだろうか。
ともすればそれとは対極的な情動的で感性が一人歩きするようなラテン的な音楽は、かえって彼にとってアナリーゼやその評価を下すことが困難だったのかも知れない。
本文は書下ろしではなく、著者生前中に音楽誌への連載やLPやCDのライナー・ノーツ用に執筆されたもので、下記のアーティストが含まれている。
弦楽器奏者ではミルシテイン、シェリング、ヴァルガ、スーク、ヘッツェル、パールマン、クレーメル、ミンツ、ムター、ヴェンゲーロフ、メニューイン、スターン、バシュメット、今井信子、カザルス、シュタルケル、ロストロポーヴィチ、ビルスマ、マイスキー、ヨーヨー・マ、デュ・プレ、鈴木秀美、ケラス。
弦楽四重奏団はジュリアード、メロス、リンゼイ、東京、ドーマス、ハーゲン、フォークラー。
声楽家はキリ・テ・カナワ、フォン・シュターデ、バトル、ヘンドリックス、オッター、シェーファー、コジェナー、ホッター、へフリガー、フィッシャー=ディースカウ、プライ、シュライアー、ベーア、アライサ、ターフェル、マティス、フェリアー。
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