2015年07月22日
フレーのバッハ:パルティータ第2番、第6番、トッカータBWV911
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フレーのバッハ演奏は、千変万化のディナーミクと絶妙なバランスが際立った名演である。
バッハの『パルティータ』特有の自由闊達な作曲技法と、それまでの様式に必ずしも囚われないエレメントの挿入をフレーの感性が個性的に捉えた、優美でリリカルな表現が特徴だ。
フレーのバッハは彼のデビュー・アルバムで『パルティータ第4番ニ長調』をすこぶる柔軟な感性で弾いたものが印象に残っているが、ここに収められた2曲でも彼のこの曲集への音楽的構想とアイデアが明瞭に反映されている。
フレーのディナーミクから創り出される音色の変化はチェンバロやオルガンのレジスターの使い分け以上に千変万化で微妙な陰影に富んでいる。
例えばフレーは対位法の各声部を決して対等に扱おうとはしない。
第2番のアルマンドに聴かれるように、左手の声部は影のように従わせ、サラバンドにおいても夢幻的とも言えるリリシズムを醸し出している。
ある声部を霧で包むようなピアニスティックなテクニックは2曲目の『トッカータハ短調』にも充分に活かされているし、それはフーガにも敢然として現れる。
こうした表現方法は大曲になると冗長になって取り留めのないものになりがちだが、第6番のような後の『フーガの技法』に通じるスケールの大きな曲でも、彼はその構成感に絶妙なバランスを保って違和感を与えていないのは流石だ。
この録音は2012年にパリのノートルダム・デュ・リバン教会で行われた。堂内の潤沢な残響に包まれているが、ピアノの音質は極めて明瞭に採られている。
またここに選ばれた3曲は総て短調で書かれているが、フレーの豊かな音楽性が光彩に満たされた幸福感を醸し出していて決して陰気な印象を与えていない。
この方法はリヒテルがクレスハイム城で録音した『平均律』と同様の効果を上げていると言えるだろう。
このあたりにもフレーのバッハを再現するための、より具体的な音響的構想と手段が窺える。
フレーにとってバッハは特に重要なレパートリーで、既にブレーメンドイツ室内管弦楽団との協奏曲集のCD及びDVDもリリースされている。
『パルティータ』に関してはこれで第2、第4、そして第6番の偶数番号が揃ったことになる。
この曲集の内包する殆んど無限とも言える音楽的可能性からして、またフレーの好みから考えても残りの奇数番号3曲に挑戦することが充分予想されるし、またそれに期待したい。
フレーは生粋のフランス人でありながら目下のところ自国の作品にはそれほど興味を示さず、主としてドイツ圏のピアノ作品を集中的に録音している。
自分の感性を全く趣味の異なるドイツ物で磨きをかけながら更に洗練しているのかも知れない。
それは逆説的で風変わりな発想にも見えるが、今までにそれらの作品に与えられていたイメージを拡張し、新たな可能性を示しているという点でも現代の優れた若手ピアニストの1人に数えられるだろう。
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