2015年07月15日
プリマ・ヴォーチェ・サンプラー
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筆者の記憶では1989年から始まったニンバスのプリマ・ヴォーチェは、既に135枚のCDをリリースしているが、このシリーズの刊行に当たってニンバスの企画には当初から明確なポリシーがあった。
それは78回転盤から実際に再生されていた音の再現であり、それまでにハイテクを駆使したリマスタリングによってCD化されたものの音質への疑問に対するひとつの解決案でもあった。
それ以前のSP盤CD化で得られた音質は往々にして余韻のない干乾びたもので、歌手の声はもとよりオーケストラに至っては聴くに堪えない惨めな音でしか再現できなかったのが実情だ。
こうした演奏を聴いてカルーソを始めとする過去の大歌手への評価を下すこと自体ナンセンスだった。
だが筆者はこのプリマ・ヴォーチェ・シリーズを聴くようになって、初めて彼らの偉大さが理解できるようになったと言っても過言ではない。
CD化のプロセスは至って単純で、保存状態の良いSP盤を当時の手廻し式蓄音機グラモフォンにかけて再生した音を再生空間の音響と共に録音するというもので、逆説的だがそうすることによってSP本来の特質が余すところなく再現されるからだ。
当然ノイズ処理も一切していない。
何故ならノイズをカットすれば可聴域の再生音まである程度除去されてしまうからだ。
レコード産業の黎明期にSP盤の製造販売が隆盛を極めたのにはそれなりの理由がある。
それは肉声に逼迫するほどの再現が可能だったからに他ならない。
特に人間の声域は、当時の録音技術と再生機器のダイナミック・レンジに最も適していたのだろう。
だからこの時代のレコード産業を支えたのは他ならない歌手達だった。
このサンプラー盤に収録されている14人のオペラ歌手達の唱法は伝統的なベル・カントの見本でもあり、彼らの技術が綿々と今日の歌手に受け継がれていることは無視できない。
確かに現代の歌手は指揮者の持ち駒として活用され、往年の人達のような勝手気ままは許されなくなったが、当時の歌い手の天衣無縫とも言える歌声を聴くことによって、本来の歌唱芸術を探ることになるのではないだろうか。
第1曲目がユッシ・ビョルリンクの『誰も寝てはならぬ』で、録音は1944年なので当時33歳の彼の輝かしい歌声を堪能できる。
また5曲目のカルーソがマントヴァ公爵を歌う『リゴレット』の四重唱は1908年の録音でカルーソ最良の記録のひとつだろう。
更に10曲目に入っているマスカーニ自身の指揮する『カヴァレリア・ルスティカーナ』では「おお、ローラ!」を歌うジーリの熱唱を聴くことができる。
これはオペラ初演50周年を記念して行われた全曲録音から採られたもので、マスカーニのスピーチも含まれている。
当時ジーリは既に50歳だったが、その歌唱はドラマティックで、しかも歌い崩しのない端正なものだ。
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