2015年07月19日
チェチリア・バルトリ/サンクトペテルブルグ
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ここ数年チェチリア・バルトリはバロック期を中心とする作曲家の隠れた名曲の発掘に余念がないが、今回の舞台はヨーロッパを離れてサンクトペテルブルグの宮廷劇場で上演されたオペラからのアリア集。
1770年代中盤から終盤にかけてのバロック期に、ロシア帝国の当時の帝都サンクトペテルブルグで活躍したオペラ作曲家たちに光を当てた画期的な作品である。
現在48歳のバルトリの円熟した声と音楽性に表現力が結集された歌唱が面目躍如のファースト・レコーディング曲集だ。
このCDに収められた18世紀後半の声楽曲はイタリア・オペラがヨーロッパ全土にペストのように大流行していた時代で、カストラート歌手達の人間技とは思えない歌唱テクニックが猛威を振るって、多くの若い女性を失神させたエピソードも残されているが、また女性歌手達の進出が始まり最終的にカストラートに取って代わる時期でもあった。
これらの曲も基本的には抒情的なカンタービレとアジリタの敏捷性を織り交ぜた単純明快なイタリア趣味で作曲されている。
勿論こうした作品を音楽的にも文学的にも内容のない白痴美として退けた作曲家や知識人も多く、実際大方は今日忘れ去られてしまったわけが、バルトリの選曲では特有の気品と音楽性に溢れたものや、目覚しいテクニックを伴った劇的な曲を集めて、効果的で優れた作品も少なくなかったことを証明している。
また当時イタリア・オペラ上演の成功には、他の何を犠牲にしても先ず洗練された美しい声を持ったスター歌手の起用が不可欠で、彼らのために作曲家達が腕を競ったとも言えるだろう。
バルトリと言えば、楽曲に対する深い洞察を随所に感じさせながら、こぶしを効かせた魂のこもった熱い歌を聴かせてくれる稀有な存在で、彼女としては初となるロシア語での美しい歌唱も披露してくれている。
バルトリのメゾ・ソプラノ特有のやや翳りのある滑らかな声には、若い頃からの超絶技巧に加えて、更に官能的な魅力が備わって絶妙な表現力を発揮している。
中でもトラック1「私は死に向かう」はリリカルな哀愁で、トラック7のオーボエ・オブリガート付の「暗い夜に迷った羊飼い」は牧歌的な雰囲気で、またトラヴェルソ助奏とのトラック9「その麗しい眼差しを曇らせないでくれ」が慈愛に満ちた美しさでこの曲集の白眉だ。
バルトリをサポートするのは今回もディエゴ・ファソーリス率いるピリオド・アンサンブル、イ・バロッキスティ及びスイス・イタリア語圏放送合唱団で、かなり野心的な創意工夫が見られる共演にも面白さがある。
昨年から今年にかけてルガーノで行われた録音は適度な臨場感があり極めて良好な音質だ。
尚このCDにはデラックス・ヴァージョンとレギュラー盤の2種類がリリースされている。
英、仏、独語による解説とイタリア語とロシア語(第2曲及び第3曲)の歌詞に3か国語の対訳が掲載されているが、特に前者はハード・カバーのカラー写真入120ページほどのライナー・ノーツが綴じ込みになっていて資料的な価値も高いコレクション仕様だ。
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