2015年07月26日
オイストラフのベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲、トリプル・コンチェルト[SACD]
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プラガ・ディジタルスの新リリースになり、ベートーヴェンのトリプル・コンチェルト及びヴァイオリン協奏曲の2曲が収録されている。
クリュイタンス指揮、フランス国立放送管弦楽団との後者の演奏は日本盤のSACDも出ているので全く新しい企画とは言えないが、既にプレミアム価格で取り引きされている入手困難なディスクなので今回の再発を歓迎したい。
一方このメンバーによるトリプル・コンチェルトのSACD化は筆者の知る限りでは初めてで、両者とも保存状態の良好なステレオ音源であることも幸いしてDSDリマスタリングの効果も明瞭だ。
1974年に66歳で亡くなったオイストラフの、もっとも脂ののったころの録音である。
1958年パリにおけるセッションになるヴァイオリン協奏曲では、クリュイタンスの流麗な表現に呼応した色彩感豊かなオーケストラが特徴的で、決して重厚な演奏ではないがベートーヴェンのリリカルな歌心を最大限引き出したサポートが注目される。
オイストラフのヴァイオリンは、本演奏でもその持ち前の卓越した技量を聴き取ることは可能であるが、技量一辺倒にはいささかも陥っておらず、どこをとっても情感豊かで気品に満ち溢れているのが素晴らしい。
オイストラフのソロは自由闊達そのもので、その柔軟な奏法と艶やかな音色から紡ぎだされる旋律には高邁な美しさが感じられる。
ベートーヴェンがこの曲をヴァイオリンの超絶技巧誇示ではなく、あくまでも旋律楽器としての能力を存分に発揮させるメロディーを主眼に置いた曲想で書いたことを証明している。
オイストラフらしい押し出しの良い第1楽章、それに続く第2楽章のヴァリエーションは秩序の中にちりばめられた宝石のようだし、終楽章はさながら歓喜を湛えた舞踏だ。
ドイツらしくないと言われれば否定できないが、こうしたベートーヴェンにも強い説得力がある。
スタイルとしては、やや古めかしさを感じるものの、これほど曲の内面を深く掘り下げた演奏というのも少ない。
いずれにしても、本演奏は、同曲演奏史上でも最も気高い優美さに満ち溢れた名演と高く評価したい。
トリプル・コンチェルトの他のメンバーは、チェロがスヴャトスラフ・クヌシェヴィツキ、ピアノがレフ・オボーリンで、マルコム・サージェント指揮、フィルハーモニア管弦楽団との協演になり同じく1958年のロンドンでのセッションで、音質、分離状態とも極めて良好。
こちらはカラヤン盤のようなスケールはないとしても、しっかりまとめられた造形美とダイナミズムがあり、ソロ同士のアンサンブルも堅牢だ。
1人1人がスタンド・プレイで名人芸を披露するというより、お互いにバランスを尊重した合わせが聴きどころだろう。
この曲も多くの選択肢が存在する名曲のひとつだが、飾り気のない真摯な演奏としてお薦めしたい。
SACD化によって両曲とも高音の輝かしさと音場に奥行きが出て、ノイズも殆んど気にならないくらい低レベルだ。
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