2015年07月28日
フェルナンド・コレナ十八番集
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スイスのブッフォ・バス歌手フェルナンド・コレナ[1916-1984]は、ジュネーヴで生まれたが、父親はトルコ人、母親はイタリア人であった。
最初は神学を学んだが、地元の声楽コンテストで優勝したことを期に声楽に転向、ジュネーヴ音楽院で学び、1940年にチューリッヒで歌手デビューを果たす。
コレナの名を一躍高めたのは、1955年エディンバラ音楽祭での『ファルスタッフ』での題名役。
同じ年にメトロポリタン歌劇場にもモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』のレポレロ役でデビューし、その後性格的なバス歌手として一世を風靡した。
さて、本盤のオリジナルLPのタイトル『CORENA IN ORBIT』はコレナ十八番集とでも言ったらいいだろうか。
この軽音楽集も長い間廃盤になっていた音源で、一代のバッソ・ブッフォとして欧米のオペラ劇場を席巻したフェルナンド・コレナの一捻りした選曲が興味をそそるCDだ。
コレナ本来のコミカルな役柄はボーナス・トラックにカップリングされた4曲のアリアで堪能できるが、それらは彼のレパートリーの中でもまさに至芸と言えるもので、滑稽な舞台姿を髣髴とさせる表現力は他の歌手の追随を許さない。
しかしここではまたトラック4の『ベゾアン・ドゥ・ヴー』で聴かせる愛の囁きや、トラック17のヨハン・シュトラウスのオペレッタ『こうもり』に挿入されたガラ・パフォーマンスからのシャンソン『ドミノ』のフランス語の巧みな歌いまわしと哀愁を漂わせた表情が低い声の歌手が持っている意外な可能性を披露している。
またトラック21の『プレチェネッラ』でもコレナのキャラクターのひとつ、つまり道化は人を笑わせるのとは裏腹に、常に心に悲しみを隠しているという性格役者の巧みさは一聴の価値がある。
コレナはそのキャリアの中で幾つかのセリオの役柄も器用にこなしているが、元来彼のブッフォ的な性格は持って生まれた資質だったようだ。
少なくともそう信じ込ませるほど彼の喜劇役者としての才能は傑出していた。
頑固でケチ、好色で間抜け、知ったかぶりの権威主義者など最も人間臭い性格の役柄で、しばしばとっちめられてひどい目に遭う。
これはイタリアの伝統芸能コンメーディア・デッラルテの登場人物から受け継がれたキャラクターだが、コレナの演技は常にドタバタ喜劇になる一歩手前で踏みとどまっている。
それは彼があくまでも主役を引き立てる脇役であることを誰よりも自覚していたからに違いない。
現在彼のような強烈な個性を持ったバッソ・ブッフォが殆んど現れないのは演出上の役柄に突出した人物が求められなくなったことや、指揮者が歌手のスタンド・プレーを許さなくなったことなどがその理由だろう。
その意味ではオペラ歌手達が自由に個性を競い合った時代の最良のサンプルと言えるのではないだろうか。
前半の16曲は総て1962年にロンドンのデッカ・スタジオで収録されたステレオ録音で、オーケストラは明記されていないが音質、分離状態とも極めて良好。
一方後半のボーナス・トラックのうち18から23までは『イタリアン・ソングス』と題されたもう1枚のLPからのカップリングで1954年のモノラル録音、最後のオペラ・アリア集が1950年及び54年のモノラル録音で、アルベルト・エレーデ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団とジュネーヴのヴィクトリア・ホールで行ったセッションになる。
尚トラック17についてはステレオ録音だがデータ不詳と記載されている。
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