2015年07月29日
ホッターのリニューアル歌曲集
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ドイツのバス・バリトン、ハンス・ホッターの十八番を集めたリサイタル盤で、1973年ウィーンでのセッションになりホッター64歳の至芸がジェフリー・パーソンズのピアノ伴奏で収録されている。
筆者自身LP盤で聴き古した名演でもあり、またホッターの歌曲集としては数少ないステレオ録音なので新しいリマスタリングによって良好な音質でリニューアルされたことを評価したい。
ワーグナー歌手としても一世を風靡した名バス・バリトン、ホッターのもう一方の極めつけがシューベルトを始めとするドイツ・リートであった。
理知的で洗練された歌手であったホッターは持ち前の声量をコントロールして、ドイツ・リートでも抜きん出た存在で、フィッシャー=ディースカウの知的な歌唱とは対極にある、しみじみとした深い味わいは絶品だ。
ここに収められたヴォルフとシューベルトのアンソロジーはホッターが生涯に亘って歌い込んだ、いわば完全に手の内に入れた黒光りするようなレパートリーだけにその表現の深みと共に、時には呟き、時には咆哮する低く太い声が無類の説得力を持って語りかけてくる。
ホッターのステレオ録音によるリサイタル盤にはリヒャルト・シュトラウスの歌曲集を歌ったLPもあったので、できればそちらの方の復活も期待したい。
ホッターは稀代のワーグナー歌いとして名を留めているが、そのスケールの大きい、しかも内面的にも優れた表現ではシューベルトの『タルタロスの群れ』が素晴らしいサンプルで、この曲の不気味な嘆きをスタイルを崩さずに表現しきっている。
また『春に』はジェラルド・ムーアとの1957年の朗々たる名唱が残されているが、ここに収められた新録音ではホッターがこの年齢になって表出し得たある種の諦観がつきまとっていて、その高踏的な感傷が魅力だし、『鳩の使い』は彼の低い声がかえって純朴で内気な青年の憧れを感じさせる。
一方ヴォルフでは『鼓手』の朴訥とした呟きがフィッシャー=ディースカウの技巧を凝らした洗練と好対照をなしていて面白いが、ホッターは田舎出の少年の奇妙な空想を絶妙に歌い込んでいる。
欲を言えば『アナクレオンの墓』も聴きたいところだがこのCDには選曲されていない。
ここではまたジェフリー・パーソンズの巧みな伴奏も聴きどころのひとつで、ホッターのような低い調性で歌う歌手の場合、声の響きとのバランスを保つことと声楽パートを引き立てながら効果的な伴奏をすること自体かなりのテクニックが要求されるが、パーソンズはその点でも万全なピアニストだった。
廉価盤のため歌詞対訳は一切省略されていて、ごく簡単な曲目一覧と録音データ及びLP初出時のジャケット写真が掲載されている4ページのパンフレット付。
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