2015年08月05日
レイチェル・ブラウンのクヴァンツ:フルート・ソナタ集
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英国を代表する女流トラヴェルソ奏者、レイチェル・ブラウンが1996年に録音したクヴァンツの7曲のソナタとフリュート・ダムールのためのメヌエットが収録されている。
選曲を見るとフラット系の調性のソナタが前半を占めているが、この手の曲は当時のトラヴェルソでは指使いが複雑になリ、音質も息漏れの多い弱いものになってしまう。
しかしブラウンは楽器の弱点をカバーして余りある恐るべきテクニックを披露している。
彼女の使用楽器は1740年製2キー・タイプ・クヴァンツ・モデルからのルドルフ・トゥッツの手になるコピーで、調性に対してもオールマイティーな性能が示されている。
材質はライナー・ノーツの写真から判断すると拓殖材でa'=415Hzのスタンダード・バロック・ピッチを採用している。
彼女が2009年に録音した2集目のクヴァンツ・ソナタ集『プライベート・パッション』でベルリン宮廷で好まれた低いピッチを採用しているのと対照的だ。
一方通奏低音を受け持つチェロのマーク・コードルは1770年製のシャピイのオリジナル、チェンバロのジェームズ・ジョンストンは1704年製のミートケ・モデルのコピーを演奏している。
尚メヌエットのみに使われているフリュート・ダムール(愛のフルート)と呼ばれる低音トラヴェルソは1720年製デンナー・モデルのコピーで、当時の人々のフルートの音色への好みが後の時代の主流になる、かろやかな高音を活かしたパッセージよりも、むしろ低音のしっとりした情緒が好まれたことを示唆していて興味深い。
この通奏低音付のメヌエットはフリードリッヒ大王の練習帳に含まれるテーマとヴァリエーションからなる小品だ。
ブラウンのトラヴェルソには文学的なレトリックやそれぞれの曲の調性の持つ特質を演奏に活かした知的なアプローチと、男性顔負けのエネルギッシュな推進力が両立している。
私達が現在それほど気に留めない調性の特質から醸し出される雰囲気や、心理的な影響はバッハやマッテゾンによっても伝えられているが、ブラウン自身の著書『初期フルートのプラティカル・ガイド』でも明らかにされているように、彼女自らの演奏で実践していたストラテジーでもある。
このCDでもひとつひとつの作品が極めて個性的な特徴を持って表現され、音楽的な質の高さから言えば二流止まりのクヴァンツの音楽が、実はトラヴェルソの機能を駆使した、当時の宮廷人にとっては最も魅力的な音楽であったことが想像される。
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