2015年08月06日
フレーのシューベルト:ピアノ・ソナタ第18番「幻想」、他
この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。
ダヴィッド・フレーはこれまで既に2枚のアルバムでシューベルトの作品集をリリースしている。
彼が最初に手がけたのがカナダのアトマ・レーベルから出た『さすらい人幻想曲』で、リストのロ短調ソナタとのカップリングだったが、それはどちらかというと彼のヴィルトゥオジティが発揮された1枚だった。
その後の彼はあえてメカニカルな技巧誇示を避けるような選曲で、自身のリリカルな感性を思いのままに表出させることに成功している。
エラートからの『楽興の時』ではこの小品集に独自のスタイルで幅広い表現の可能性を示したが、今回のソナタ第18番ト長調D.894でもシューベルトのウェットな歌心と音楽への愉悦に溢れている。
リヒテルの同曲の演奏を聴くと寂寥感が滲み出ていて作曲家の諦観を感じさせずにはおかないが、フレーは同じようにゆったりとしたテンポを取りながら、天上的な長さを持つ第1楽章を深い陰翳が交錯するような詩的な美学で弾き切っている。
シューベルトが数百曲ものリートをものした歌曲作曲家であったことを考えれば、こうした解釈にも説得力がある。
またもうひとつの愛らしいピース『ハンガリー風メロディー』D.817でもニュアンスの豊かさと殆んど映像的でセンチメンタルな描写が極めて美しい。
後半ではフレーのパリ音楽院時代の師、ジャック・ルヴィエを迎えてシューベルトの4手のための作品2曲を演奏している。
曲目は『幻想曲へ短調』D.940及びアレグロイ短調『人生の嵐』D.947で、彼らの連弾には聞こえよがしのアピールはないが、かえって抑制されたインティメイトな雰囲気の中に、変化に富んだタッチのテクニックを使い分けて彫りの深い音楽を浮かび上がらせている。
低音部を受け持つルヴィエも流石に巧妙で、フレーの構想するシューベルトの物語性をセンシブルにサポートしているのが聴き取れる。
フレーはコンサートはともかくとして録音に関しては目下のところフランス物には目もくれず、ドイツ系の作曲家の作品ばかりを取り上げている。
それは彼のラテン的な感性が図らずもゲルマンの伝統を受け継ぐ音楽にも対応可能なことを実証しているように思える。
ちなみに彼がこれまで録音したベートーヴェンのソナタは1曲のみだが、シューベルトの作品集への研鑽が来たるべきベートーヴェンへの足がかりになっているような気がしてならないし、またそう期待したい。
潤いのあるピアノの音色が効果的に採音された録音も充分満足のいくものだ。
ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング
フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。