2015年08月12日
アバドのルツェルン音楽祭 '13オープニング・コンサート
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2013年夏のルツェルン音楽祭で撮影された、アバドが亡くなる数ヶ月前の貴重な映像である。
さすがに指揮台に登場する彼の姿はやつれて痛々しいものがあるが、派手なジェスチャーのないゆるやかなタクトから生み出される音楽は驚くほど瑞々しく流麗で、オーケストラの自主性を尊重しながらも幅広いダイナミズムを駆使した、全くツボを外さない的確な指示が見どころだ。
プログラムの第1曲目はブラームスの『悲劇的序曲』で、音楽的なバランスが絶妙にとれた抒情性が特筆される。
2曲目はアバドが得意とする歌が入ったシェーンベルクの『グレの歌』から間奏曲と「山鳩の歌」で、彼がオーケストラから導き出すカンタービレが極めて美しく、「山鳩の歌」に入るとメゾ・ソプラノ藤村実穂子の堅実で真摯な歌唱が、この作品の緊張感を緩めることなくクライマックスへと向かう。
その高まりへの持続は図らずも死の告知で、余命いくばくも残されていなかったアバドの姿がオーバーラップして印象的だ。
最後に置かれたベートーヴェンの『英雄』にしても、これは彼の若い頃からのポリシーだろうが、スコアを忠実に追いながら重厚でもなければ構築的でもない、音響としての美しさと迸り出るような自然発生的な音楽美学が冴え渡っていて、それはここに収録された他の2曲にも共通している。
音楽を鑑賞するものに常に喜びを与えてくれた指揮者がまた一人去ってしまったことへの追悼と、アバドへの感謝の気持ちを改めて表したい。
ルツェルン祝祭管弦楽団はアバドが芸術監督に就任して以来、主要ポストに彼と親しかった奏者を置いて流動的なメンバーの編成と音楽的な高い水準を保っているが、この映像でもフルートのジャック・ズーンやクラリネットのザビーネ・マイヤーの姿が見られる。
演奏会当日のカラー写真入りの15ページほどのライナー・ノーツが付いていて、彼のルツェルンでのラスト・オープニング・コンサートについてのコメントが英、独、仏語で掲載され、オーケストラ全員の編成リストが明記されている。
またシェーンベルクに関しては歌詞対訳は付いていないが、サブ・タイトルに日本語が選択できるのは親切な配慮だ。
尚このコンサートの映像はブルーレイ・ヴァージョンでもリリースされている。
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