2015年09月14日
ゼルキンのシューベルト作品集
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ルドルフ・ゼルキンがコロンビアに録音したシューベルト作品集で、ソロだけでなくピアノ五重奏曲『ます』を始めとするアンサンブル作品や歌曲も収録されているのが嬉しい。
ゼルキンの演奏には大衆受けを狙った媚びや派手なアピールなどは全くないが、逆に言えば表面的で小器用な表現を一切避けて真摯に弾き込んだ音による力学と音楽の構造を疎かにしない、より普遍的で純粋な音楽性の追究がある。
そこにシューベルトの高度に洗練された精神的な安らぎと喜びが表されているのではないだろうか。
それを理解するには全曲を通して鑑賞することが望ましい。
入門者にはゼルキンの饒舌を嫌った素朴さが物足りないかも知れないし、また演奏には情に流されない厳しさが存在するのも否定できないとしても、一度彼の演奏哲学の魅力を知ったならば新たな音楽的視野を広げることになるだろう。
ピアノ・ソナタでもシューベルトをより古典派の作曲家として捉えた、節度をわきまえた誇張のない表現が特徴だが、楽章どうしの有機的なつながりが図られていて曲全体が緊密にまとまっている。
かえって『即興曲』や『楽興の時』などの小品集では自由闊達なロマン派的解釈を示している。
尚変ロ長調『遺作』はセッションとカーネギー・ホール・ライヴの2種類を聴き比べることができるが、ライヴでは演奏終了後客席からの拍手喝采を受けている。
アンサンブルではブッシュ兄弟とのピアノ三重奏曲がCD3に収録されている。
ゼルキンは十代の頃からアドルフ・ブッシュのパートナーとしてヨーロッパ各地での演奏活動を始めた。
この演奏はアドルフの亡くなる前年に録音されたもので、彼のイントネーションはやや乱れがちだが、ゼルキン亡命後も生涯に亘って続いた彼らの厚い友情には感慨深いものがある。
ピアノ五重奏曲『ます』のピアノ・パートではゼルキンがアンサンブル全体を締めくくる要の役割を果たして、冗長になりがちなこの曲にしっかりとした形式感を与えている。
ふたつの歌曲『流れの上で』はホルンの、『岩の上の羊飼い』はクラリネットのそれぞれオブリガートが付いたシューベルト晩年の珍しい作品だ。
特に後者はコロラトゥーラ・ソプラノのために書かれ、ヨーデルを模しているが、この曲の歌詞に使われている詩は複数の詩人の作品を彼が任意に繋げたもので、この時期のシューベルトが自身の歌曲に斬新な試みを始めていたことが興味深い。
こうした曲目の伴奏にゼルキンを迎えているのは随分贅沢なことだが、それだけにソロのホルンやクラリネットも良く制御され、ヴァレンテの清楚な歌唱を引き立てて文学的な趣向を高めている。
古い音源では一部に音揺れが聞こえるが音質は概して良好。
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