2015年09月20日

ラトルのマーラー:交響曲全集


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ラトル若き日の一大記念碑だ。

このマーラー全集を語る前に指揮者サイモン・ラトルについて一度おさらいしておきたい。

1955年にリヴァプールで生まれたサイモン・ラトルはイギリスを、というより現在のクラシック音楽界を代表する名指揮者と見なされている。

2002年からはベルリン・フィルの芸術監督に就任した。

ラトルはさまざまな意味でカラヤンのうちに先鋭化されたクラシック音楽の商業化に抗っているように見える。

たとえば彼はローカル楽団に過ぎなかったバーミンガム市交響楽団を鍛え上げて、世界級の名声を得た。

むろん、彼のもとにはさまざまな有名オーケストラから常任指揮者や監督にならないかという誘いがあったという。

しかし、彼はそうしたスピーディかつイージーなスターへの道をとりあえず拒むポーズを見せた。

それが、見かけだけの音楽家にうんざりした人たちの圧倒的な支持を受け、結局はベルリン・フィルの芸術監督という黄金の椅子を獲得するに至ったのである。

アーノンクールはカラヤン主義と対決するために挑発的にならざるを得なかったが、ラトルは特に挑発的にならずにすんでいるところに、時代の推移が見て取れる。

ラトルはひとことで言うなら、超弩級の優等生である。

勉強家でもあり、バロックから現代作品まで、他の指揮者が興味を示さない音楽にも積極的で、おまけに、音楽界の風向きを読む賢さも持っている。

もともと頭がよくて能力のある人が人一倍勤勉なのだから、なかなか他の指揮者は太刀打ちできない。

たとえば、彼が1986年、つまり、わずか30歳とちょっとのときに録音したマーラーの交響曲第2番「復活」(バーミンガム市交響楽団)が本セットに収められている。

これは今聴いても、非常に完成度の高い演奏で、ラトルは、驚くべき丁寧さで音楽を進めていく。

曖昧な点を残すのは我慢がならないといった様子で、細部を詰めていくのだ。

カルロス・クライバーのデビュー録音「魔弾の射手」は、まさに天才的としか言いようがないものだったが、ラトルのこれは超秀才と呼ぶのがふさわしい。

しかも丁寧だけでなく、ちょっと普通でないというか、人工的というか、妙に耽美的な部分もある。

ラトルは、特にマーラーを指揮したとき、部分的に非常に遅いテンポを取ることがあるのだが、それがバーンスタインのように心を込めるといったものではなく、作りものめいた耽美性を示すのがおもしろい。

ラトルにとってマーラーは常に最も重要なレパートリーである。

彼のマーラー演奏は「復活」にもよく表れているようにきわめて明快で、見通しのよい響きがする。

そして、音のひとつひとつが演劇的な表現性をもって、つまり心理的なダイナミズムの表現として聞こえてくることはあまりなく、逆に、ラヴェル的とでも言えるほど、意味を剥ぎ取られている。

だから、たとえば交響曲第7番をテンシュテットと比べてみるとよくわかるが、皮肉の色合いはまったく薄く、陰影もあまりない。

それゆえ、音楽にドラマを求める聴き手にとってはあまりに薄味にすぎようが、音楽とは音という絵の具を使った抽象画であると考える人には、実に魅力的だろう。

響きがよく練り上げられ、調和した、洗練された音楽であり、不安なおののきや危険な誘惑はまったくなく、健康的である。

筆者の正直な感想を記すなら、ラトル流はもちろんひとつの解釈あるいは演奏法として、存在してよいと思うし、立派な水準に達しているが、それだけで捉えきれないものがマーラーにはある。

バーンスタインやテンシュテットの強烈で、毒があって、自分の人生を問うているような、そして聴き手である自分の人生も問うているような圧倒的な演奏を知っているがゆえに、不満が消え去らない。

ここまで調和してしまうと、音楽がきれいごとになってしまっていると感じてしまう。

とはいえ、彼のマーラー全集は、現代において聴くことができる最高のマーラーのひとつであることは認めねばならない。

本全集でラトルはバーミンガム市交響楽団を軸に、「第5」「第10」ではベルリン・フィル、「第9」ではウィーン・フィルを起用しているが、目下のところ、バーミンガム市交響楽団との録音のほうが聴く価値があると思う。

さすがの超秀才も、これらの録音当時はベルリン・フィル、ウィーン・フィルのようなくせ者オーケストラを自由自在に操るまでには至っていないからだ。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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