2015年10月24日
ブーレーズのマーラー:交響曲全集
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ブーレーズが15年の長きにわたって録音したマーラーの集大成BOXであるが、ブーレーズのマーラーは、若き日の前衛時代ではなく、むしろ角の取れたソフト路線が顕著となった時期の録音だけに、純音楽的なアプローチでありながら、比較的常識的な演奏に仕上がっていることが多いように思う。
それゆえ演奏は、あらゆる意味でバーンスタインやテンシュテットなどによる濃厚でドラマティックな演奏とは対極にある純音楽的なものと言えるだろう。
ブーレーズは、特に1970年代までは、聴き手の度肝を抜くような前衛的なアプローチによる怪演を行っていた。
ところが、1990年代にも入ってDGに様々な演奏を録音するようになった頃にはすっかりと好々爺になり、かつての前衛的なアプローチは影を潜め、オーソドックスな演奏を行うようになった。
もっとも、これは表面上のことで、必ずしもノーマルな演奏をするようになったわけではなく、そこはブーレーズであり、むしろスコアを徹底的に分析し、スコアに記されたすべての音符を完璧に音化するように腐心しているようにさえ感じられるようになった。
楽曲のスコアに対する追求の度合いは以前よりも一層鋭さを増しているようにも感じられるところであり、マーラーの交響曲の一連の録音においても、その鋭いスコアリーディングは健在である。
本演奏においても、そうした鋭いスコアリーディングの下、曲想を細部に至るまで徹底して精緻に描き出しており、他の演奏では殆ど聴き取ることが困難な旋律や音型を聴くことができるのも、本演奏の大きな特徴であり、ブーレーズによるマーラー演奏の魅力の1つと言えるだろう。
もちろん、スコアの音符の背後にあるものまでを徹底的に追求した上での演奏であることから単にスコアの音符のうわべだけを音化しただけの薄味の演奏にはいささかも陥っておらず、常に内容の濃さ、音楽性の豊かさを感じさせてくれるのが、近年のブーレーズの演奏の素晴らしさと言えるだろう。
本演奏においても、そうした近年のブーレーズのアプローチに沿ったものとなっており、マーラーのスコアを明晰に紐解き、すべての楽想を明瞭に浮かび上がらせるようにつとめているように感じられる。
もっとも、あたかもレントゲンでマーラーの交響曲を撮影するような趣きも感じられるところであり、マーラーの音楽特有のパッションの爆発などは極力抑制するなど、きわめて知的な演奏との印象も受ける。
黙っていても大編成のスコア1音1音に、目に見えてくるような透徹さが保たれている。
なおかつそれら各部が有機的に結合されつつ前進していくため、感情移入的演奏を耳にすると初心者には雑多に聴こえてしまいがちなマーラーの濃厚なロマンティシズムが、知らず知らずのうちにすっと聴く者に入ってくるのだ。
さらに、ブーレーズの楽曲への徹底した分析は、マーラーの本質である死への恐怖や生への妄執と憧憬にまで及んでおり、演奏の表層においてはスコアの忠実な音化であっても、その各音型の中に、楽曲の心眼に鋭く切り込んでいくような奥行きの深さを感じることが可能である。
これは、ブーレーズが晩年に至って漸く可能となった円熟の至芸とも言えるだろう。
いずれにしても本演奏は、バーンスタインやテンシュテットとあらゆる意味で対極にあるとともに、一切の耽美的な要素を拭い去った、徹底して純音楽的に特化された名演と評価したい。
もっとも、徹底して精緻な演奏であっても、例えばショルティのような無慈悲な演奏にはいささかも陥っておらず、どこをとっても音楽性の豊かさ、情感の豊かさを失っていないのも、ブーレーズによるマーラー演奏の素晴らしさであると考える。
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