2015年10月03日

グレン・グールド/コンプリート・ボックス


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グレン・グールドが聴衆の前から忽然と姿を消して、専ら録音や録画というメディアのみを通して独自の芸術を模索し始めたのは1964年からで、その理由は会場の音響や聴衆の反応によって、あるいは演奏者自身の精神的な高揚などで変化し得る音楽の刹那的な表現を嫌ったからだ。

グールドが日頃から温め、準備してきた音楽的構想が実際のコンサートという場で、それとは異なるものが偶発的に表れてしまうことが彼には堪えられなかったのだろう。

鑑賞する立場からすれば、むしろ演奏者の高揚や一期一会の演奏にライヴの面白みがあると思うのだが、グールドはこの現象を誰よりも厳格に受け止めて、至高の芸術のためには避けるべき演奏形態だという結論に達したようだ。

それは一瞬にして消え去っていく宿命を持った音楽芸術への挑戦でもあった筈だ。

その後の彼はこのポリシーを徹底させて生涯変えることがなかった。

その意味で彼は演奏形態においても革命家であり、録音という現代になって初めて可能になった伝達手段に敏感に反応し、絶大な信頼を置いた最初の、そして殆んど唯一のピアニストだったのではないだろうか。

勿論グールドはピアノ奏法でも革新的なテクニックを編み出さずにはおかなかった。

中でも対位法への傾倒と声部を独立させる奏法の確立には尋常ならざる情熱が感じられるが、このセットに収められた81枚のCDには彼の音楽に対する孤高の哲学と精神性が示されている。

前回2010年にリリースされた豪華なグールド・バッハ作品集を既に購入した者としては、バッハを除いて欲しかったというのが正直な感想だ。

と言うのも今回の81枚のCDのうち38枚にダブりが出てしまうからだが、バジェット価格でのDSDリマスタリングとコレクション仕様の限定盤という触れ込みに負けて買ってしまった。

尤もバッハ作品集はこのセットには付いていない6枚のDVDがセールス・ポイントだったので、これが現在までに1度ならずもリリースされたグールド全集の決定版だと思えば、ダブりには目を瞑るだけの価値はある。

当然音源の年代や保存状態によって差はあるが、確かにピアノの響きから雑味が払拭されたようなクリアーな音質が再現されていて、これはリマスタリングの証左だろう。

特に今回は普段それほど聴いていなかったシュヴァルツコップを始めとする声楽家の伴奏や、ヒンデミットの一連の室内楽などにソロとは一味違うグールドの一面を改めて知った。

決して長いとは言えなかった彼の全盛期にこうした多彩なアンサンブル作品を遺してくれたことにも感謝したい。

余人には真似のできない境地を拓いたピアノ界の全く新しい使徒としてのグールドへの評価は今や定着しているが、オールド・ファンだけでなく、グールドを過去のピアニストと捉えている若い世代のクラシック・ファンにも見直されるべき内容を誇っていることを疑わない。

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classicalmusic at 00:21コメント(4)トラックバック(0)グールド  

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コメント一覧

1. Posted by くまごろう   2017年04月01日 15:02
5 これは、もはや記録ですね。
よく、こんなにたくさんのいろんな曲を弾いたものですΣ('◉⌓◉’)

私みたいに、クラシックをあまり聴いたことがないものにとっては、初めて聴く曲、名前さえ聞いたこともない作曲家(Disk42のバード.ギボンズとか、Disk29も。)いました。先入観がなく、新鮮でした。

バッハが有名なグールドですが、私はDisk11のブラームスが最も気に入りました。ミーハーですがレコードジャケットもとても素敵です♡
2. Posted by 和田   2017年04月01日 16:24
グールドのブラームス(特に間奏曲集)は、私の座右宝的アルバムで、枯淡の境地とも言うべきか、名状し難い侘しさと寂しさに満ちていて、音楽を聴いてより静けさに浸る醍醐味と、あたかも作曲者の肉声を目の当たりにするかのような吸引力があります。
見せたいもの、誇りたいもの、際立たせたいものは何もなく、ただ作品に秘められた陰、詩情、はかなさを、モノクローム的色彩感と仄かに揺れる息づかいとで最愛の音楽に変えた感動が漂っています。そこにあるのは甘美なる孤独であり、行き場のない優しさです。それを受け取るのは、結局発した自分なのであり、すべては円を結ぶように帰ってくるかのようです。人生はこうして完結されていくのでしょうか。
3. Posted by くまごろう   2017年04月18日 18:12
5 コメントかっこよすぎです。
こんな風に音楽聴けるなんて...深い。

さて、バッハついでに(バッハさんに失礼だわ)スカルラッティも聴き始めました。
4. Posted by 和田   2017年04月18日 18:41
スカルラッティは1度ホロヴィッツで聴いてみて下さい。目から鱗です。

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Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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