2015年10月05日
ヴィトゲンシュタインに因んだ左手のためのピアノ作品集
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さまざまな理由から、右手が困難になったピアニストのために書かれた左手作品を集めたシリーズ第1弾。
このジャンルと言えば挙げられるオーストリアのピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタイン(1887-1961)は、第一次世界大戦で負傷し右手切断というピアニストにとっては致命的な半生を送ることを余儀なくされたが、彼は果敢にも左手のみで演奏することを決意し、楽壇に復帰した。
それ以前は左手のためのピアノ作品なるものはごく際物的な存在でしかなかったが、ヴィトゲンシュタインの委嘱によって当時第一線で活躍していた作曲家達がその可能性を探って書き下ろしの新曲を次々に彼に献呈した。
本盤には、ヴィトゲンシュタインの依頼で作曲されたラヴェル、プロコフィエフ、ブリテンの協奏曲をメインに、スクリャービンとバルトークの小品が収められた魅力的なラインナップ。
それらは音楽的な傾向も趣味や音響も全く異なっていて、中にはプロコフィエフの協奏曲のようにヴィトゲンシュタイン生前中には演奏されなかった作品もあるが、こうして集められると壮観なアルバムが出来上がる。
このCDではラヴェル、プロコフィエフ、ブリテンへの委嘱作品と、左手ソロ用のスクリャービン及びバルトークがそれぞれ1曲ずつ選ばれているが、演奏陣が超豪華。
ラヴェルがフランソワとクリュイタンス、プロコフィエフがゼルキンとオーマンディ、ブリテンがカッチェンと作曲者という定評のある音源であり、さらにガヴリーロフが弾くスクリャービンも未知の音源。
こうした演奏者の充実ぶりにもこれらの左手のための楽曲が決して際物ではない、第一級の芸術作品として評価されていることが興味深い。
いずれも作曲者たちがピアニズムのトリックと職人芸を駆使して両手以上の効果をあげているのが驚きで、左手のためのピアノ音楽をじっくり聴くのに最適なアルバムと言えるだろう。
特にカッチェンがソロを弾くブリテンの『主題と変奏』はヴィトゲンシュタインが称賛した曲だけあって、左手の能力を最大限に引き出した効果的な音楽構成と、ヴァリエーションでの変化の豊かさは際立った仕上がりを見せている。
ごく初期のステレオ録音ながら、作曲者自身の指揮でカッチェンの演奏を堪能できるのは幸いだ。
ひとつだけ残念なのは、この新シリーズで誇っていた音質の良さがこのCDではいくらか劣っていることで、歴史的な録音を集めたアルバムなのである程度は致し方ないが、ハンガリーの名手、ガボール・ガボシュの弾くバルトークは不鮮明な音質に加えて音揺れがあり、演奏が優れているだけに惜しまれる。
尚左手のためのピアノ作品集は既に第2集もリリースされている。
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