2015年12月30日
ベーム晩年の演奏集
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ベーム晩年を特徴づける表現力の懐の深さによって、どの楽曲を幾度耳にしても飽きのこないオーソドックスな音楽づくりを感じさせてくれるのがこのセットのセールス・ポイントだ。
ベームの演奏は、ベートーヴェン、シューベルトからブルックナーなどでも共通し全体構成がしっかりと組み立てられており、厳格なイン・テンポで、かつ弦と管の楽器のバランスと融合が絶妙でどちらかが突出するということがない。
それを可能とするのは、幾度もベーム自身が語っているように、スコアを徹底的に読み込み(新即物主義と言われる場合もある)、オーケストラに周到な練習を課することによって可能となる。
その一方、リスナーにとってどこに連れていかれるかわからないような、ある種のワクワクドキドキ感(たとえばカルロス・クライバー)とは無縁である。
以上の特質から、ベームらしさとは非常な集中力のもと、はじめの1音から作品そのものに導き、演奏の個性よりも作曲家の心象へリスナーの関心が集中することにある。
落ち着きのあるアプローチは、重心の低さを常に意識させるが、磨かれた音は、けっして軽からず重からず、ウィーン・フィルの場合は特に瑞々しくも美しい。
この23枚はベームがドイツ・グラモフォンに録音した演奏集の中でも比較的晩年のセッションからオーケストラル・ワークを中心に収録されている。
そのために録音状態も良好で、またランダムに選曲したようで意外にも先頃ユニヴァーサル・イタリーからリリースされた彼の交響曲集22枚のバジェット・ボックス・セットとの曲目のだぶりが皆無なのが嬉しい。
このセットのモーツァルトの交響曲集とシューベルトの交響曲第9番はウィーン・フィルを振ったものだし、ベートーヴェンの『第9』は1980年の再録音の方が選ばれている。
また前者には収録されていなかったハイドン、シューマン、チャイコフスキー、ブルックナーの交響曲の他にベートーヴェンの序曲集も加わって、事実上ユニヴァーサル・イタリーのセットと対をなしてベームのよりインテグラルなオーケストラル・ワーク集のコレクションになる筈だ。
通常こうしたバジェット・ボックスは、同じ傘下のレーベルでも独自の企画でリリースされるために、先に出たものに飛びつくと、その後更に充実したセットが出る可能性が高く二の足を踏んでしまう。
かと言って両方揃えると同一録音で溢れてしまうという懸念がある。
しかし今回は偶然なのか、あるいは売り上げを見込んだ戦術なのかは分からないが、結果的には入門者にも揃え易い企画になっていることは評価したい。
ライナー・ノーツは55ページあり、『第9』は英語対訳、『ミサ・ソレムニス』及びモーツァルトの『レクイエム』はラテン語のテキストに独、英語の対訳付。
ボックスはクラム・シェルではなく、上下にスライドさせて開閉するタイプでしっかりした装丁。
サイズはやや大きめの12,5X13,5X7cm。
尚最近メンブランからリヒャルト・シュトラウスのオペラ8曲を収めた全曲盤20枚が復活したが、欲を言えばベームの振ったオペラや声楽曲、更に協奏曲や室内楽などのレパートリーのリマスタリング盤での復活が望まれるところだ。
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コメント一覧
1. Posted by 小島晶二 2023年05月19日 21:07

2. Posted by 和田大貴 2023年05月20日 05:16
カール・ベームは14歳ほど年下のカラヤンに比較してレコーディング量がかなり少ないのは否めません。1997年に刊行された最初のベートーヴェン・エディションにも交響曲全曲はカラヤン、ベルリン・フィルの録音が採用されました。当時帝王と呼ばれたカラヤンのディスクは超売れ筋だったので、致し方なかったのかも知れませんが、指揮に何のはったりもなく、音楽にこれ見よがしのアピールもないベームからは、愚直なまでにひたすら作品に真摯に向かい、常に音楽の原点に立ち返る潔い姿勢が感じられます。それが言ってみれば彼の個性であり、彼の音楽が長く愛される理由でしょう。