2016年01月03日
ホッター&ムーアのヴォルフ:歌曲集
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ハンス・ホッター全盛期のEMI音源のヴォルフ歌曲集を英テスタメントがリマスタリングしたもので、前半の17曲は1951年と1953年のセッションになり、後半の5曲は1957年の録音だが、このうち『楽士』及び『徒歩の旅』の2曲は、当初モノラルでリリースされたものがこのリマスタリング盤では初めてのステレオで再現されている。
EMIのステレオLPの販売は1958年からだが、オリジナル・マスター・テープは試験的なステレオ録音だったのだろう。
全22曲中『アナクレオンの墓』は新旧2種類の演奏が収録されていて、ホッターの解釈自体は変わっていないが新録音の方が音質で俄然優っている。
ゲーテの詩に付けられたこの曲は彼の十八番であり、低い声で歌われる密やかな佇まいと暖かく包み込むような雰囲気、詩人アナクレオンの塚の周りに鬱蒼と生い茂る木々や蔦などを映像的に表現した歌唱が傑出している。
またホッターをサポートするジェラルド・ムーアの伴奏が絶妙で、この作品を一層魅力的なものにしている。
一方『鼓手』では田舎出の少年の軍隊生活での奇妙な空想が、ホッターの朴訥とした表現でかえって生き生きと描かれているのが面白い。
その他にも良く知られた『隠棲』では年老いた世捨て人さながらに彼の歌声が響いてくるし、『プロメテウス』ではゼウスに罰せられたプロメテウスの底知れない憤怒を伝えている。
フーゴー・ヴォルフほど詩と音楽を緊密に結び付けようとして、またそれに成功した作曲家は稀だろう。
ヴォルフはテクストに選んだ詩を恐ろしいほどの洞察力で読み取り、その言霊の抑揚ひとつひとつに人間の心理やさがを見出し、嬉々としてそれを楽譜に写し取っていった。
ピアノさえも伴奏の範疇を抜け出して、歌詞と対等か時にはそれ以上に語らせ、森羅万象を表すだけでなく心理描写にも心血が注がれている。
それは殆んど狂気と紙一重のところで行われた作業であるために、その再現には一通りでない表現力や機知と、それを裏付けるだけの声楽的なテクニックが要求される。
ホッターはフィッシャー=ディースカウほど精緻ではないにしても、いくつかの作品ではむしろ彼を凌駕する歌唱を披露している。
このテスタメント盤の後にEMIイコン・シリーズのホッターの9枚組がリリースされた。
その中のヴォルフ歌曲集では21曲が同一録音が収録されているが、何故か2度目の『アナクレオンの墓』だけが抜けている。
尚ライナー・ノーツには全歌詞に英語対訳が掲載されている。
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