2016年05月25日

朝比奈&大阪フィルのベートーヴェン:交響曲全集


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朝比奈自身が「音楽の聖書」として畏敬したベートーヴェンの交響曲は最も得意とするレパートリーであり、その指揮表現は、良き時代のドイツの音楽を反映したものと言うべく、内声部を重視して響きに厚みと重量感をもたせ、壮大なスケール感を生み出す。

朝比奈の偉大さは、その芸術の完成の道にあってすら演奏ごとに新しい発見をしようとする意欲を持ち続け、それを演奏に反映し続けていることである。

テンポの遅い、がっしりした構成という解釈の基本は不変であるが、方向としてはより純度の高い、無駄のないすっきりとした演奏となっている。

完成期の芸術らしくすべては自然のなかで様々な要素が円満に溶け合い、しかも日々新たなものであろうとする彼の晩年の演奏とそのあり方は、ひとりの演奏家の晩年の理想の姿とよんでよいものかもしれない。

第1番、第3番といった過去にも名演の多い曲は相変わらず素晴らしいが、中では第4番が例外的に個性が強く(特に終楽章のスロー・テンポ)、第2番もかなりゴツイ感触がある。

反対に第5番、第8番などはやや歯切れが悪く物足りないナンバーもあるが、総合的に第1番、第3番、第4番、第6番、第9番などは、このスタイルとして他の追随を許さない。

日本の音楽ファンは、自国の指揮者やオーケストラをとかく軽視しがちだが、ここでの朝比奈の指揮ぶりは、その重厚壮麗な迫力と恰幅の良さにおいて際立っており、本場のドイツを見まわしてみても、これだけのベートーヴェンを振れる指揮者は現今見当たらない。

長年に亘って朝比奈が鍛えてきた大阪フィルも熱演で応え、全員打って一丸となった演奏であり、その情熱に打たれてしまう。

第3番は文字通り英雄的、第4番は音楽をはみ出すほど巨大(フィナーレなど超スロー・テンポで悪魔的な最強音が連続する!)、第6番はブルックナーのように重厚な田園、第9番の威容は改めて述べるまでもあるまい。

今回の全集で筆者が特に感銘を受けたのは第6番で、荘重なテンポでしゅくしゅくと進む名演である。

第1楽章の沈んでゆくような趣、第2楽章の俗っぽさのまるでない静かな祈り、それは老年の感慨を伴って格調が高く、スケルツォの立派な充実感と堂々としてケレン味のない〈嵐〉が続くのである。

全体に広々としたテンポ、大編成のオーケストラによる恰幅の良い響き、あたりをはらうスケールの大きい堂々とした造型、悠々として迫らぬ威厳と立派な男性美、各パートの充実と情報量の多さはこの指揮者の独壇場と言えよう。

現代の流行から超然として、分厚くも情熱的なベートーヴェン像が追究されており、スコアへのアプローチはオーソドックスだが、出てきた結果は個性的という、朝比奈独特のスタイルがここにある。

朝比奈は、第1番、第2番、第4番、第8番といった小型のシンフォニーにも弦楽器だけで60人、管楽器は倍に増やす、という大編成のオーケストラを使い、ゆったりとしたテンポと重いリズムで、音楽をあくまで分厚く、堂々と響かせてゆく。

そこには時代の流行を追って新しがったり、スコアをいろいろ工夫して面白く聴かせたり、といった小細工や小賢しさがいっさいなく、無器用に、武骨に、ひたすらベートーヴェンの楽譜を信じ切って、この作曲家の男性美を逞しく描き上げる。

その裏づけとなるのが、ひたむきな情熱なのだ。

いわば無手勝流の指揮ぶりだが、かえって安定した立派さを生み出すのである。

こういうスタイルは昔ながらのドイツ流儀であり、この重厚な迫力と恰幅の良さにおいて際立ったドイツ風の表現はもう古いという人も多いだろう。

もっとスリムで洗練されたベートーヴェン、古楽器の影響を受けた斬新なベートーヴェンがこれからの主流になるだろうからだ。

しかし、そうであるからこそ、朝比奈の描く英雄ベートーヴェン像は、汗くさい人間味を横溢させて、未来にいたるまで価値を持ち続ける筈である。

一点一画もおろそかにしない真摯さと情熱、細部を抉ったきれいごとでない響き、がっしりとした強固な骨組、スケールの大きさ、まことにすばらしい。

長年、朝比奈のベートーヴェンを聴き続け、そのスタイルに慣れてしまったせいもあるかもしれないが、少なくともブルックナーとベートーヴェンに関する限り、音楽そのものを最も堪能させてくれるのが朝比奈であり、他の演奏は指揮者の個性や味つけがチラチラ見え隠れするのだ。

こういったいわゆる愚直なまでの誠実さや頑健さ、虚飾皆無に通じる味わいは、往年のコンヴィチュニー&ゲヴァントハウスの王道を行くベートーヴェン演奏を彷彿とさせる。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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